悪魔は夜に笑う
ホテルを出たのは午前10時。私の気分とは裏腹に雲ひとつない晴天だった。
まだ5月なのに日差しが強くて日陰を選んで歩いた。
すれ違った人には不審者に思われたことだろう。

家に帰った私はシャワーを浴びてその後夕方までぐっすり眠った。
起きてメイクをして、バーの18時の開店に合わせて家を出た。


「いらっしゃいませ。ようこそ愛結那さん」

「マスター!おかえりなさい」


蒼士郎くんと鉢合わせたらどうしようと思ったけど迎え入れてくれたのはマスターだった。
きっちりと固められたオールバックの髪に、整えられた口ひげが渋いダンディな男性。

彼はこの店、「BAR harmonie(アルモニー)」のオーナー兼マスター、土井(どい)和幸(かずゆき)さんだ。
私は新社会人なりたての時、職場の歓迎会の3次会で初めてこのお店を訪れて以来、ファンになって通いつめている。


「やっと会えた〜、もう聞いてくださいよ」


マスターは昨日で47歳になったらしい。
だから故郷の沖縄で家族から誕生日のお祝いをしてもらっていたとか。

そのためマスター不在の間は蒼士郎くんがひとりでお店を任されていた。
今日は彼に会いにたくさんのファンが押し寄せることだろう。

だって25歳という若さで独立してこの地にお店を構えたマスターにはファンが大勢いる。
バーテンダーの世界大会に出場したほどの高い技術を持ちながら驕ることなく、何事もひたむきで客に寄り添ってくれる紳士。

人気店にならないわけがない。
私は忙しくなる前に恋愛相談をすることにした。
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