悪魔は夜に笑う
月明かりの中、他愛もない話をしながら帰路に着く。
求めていた平穏でありきたりな幸せが訪れたことを、満月を見上げながら感じた。

蒼士郎くんは私のペースに合わせて歩いてくれる。
そんな些細な気遣いに愛情を感じて自然と頬がほころんだ。


「蒼士郎くんってなんでバーテンダーになったの?」


今なら、この問いかけにも答えてくれるだろうか。
いつもはなりゆきで、マスターとご縁があって、なんて当たり障りのないことばかり言ってた。
でもワケありなのは知ってる。

そうじゃないと、現役で国立の医学部に進学したのに中退なんてしないと思う。
蒼士郎くんが医大生だったと知ったのは割と最近のこと。
でもその時は付き合ってもないし、踏み込んでいい話題なのか分からなくて聞かなかった。

すると蒼士郎くんは月を眺めて、瞬きをした後に私の方へ顔を向けた。


「あゆなさんは俺の性格よく分かってると思うんだけど、昔はもっとひねくれ者で」


何を言うかと思ったらひねくれ者?今でもそうじゃないかと吹き出して笑ったら睨まれた。
しまった、これたぶん真面目な話をしてくれる感じだ。


「ごめん、続けて」


表情を改めて真摯に話を聞くことにした。
蒼士郎くんは小さくため息をつくと視線を少し下げ、口を開いた。
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