悪魔は夜に笑う
「俺ね、いっこだけ夢があって」


その表情を保ったまま呟かれた言葉に驚いた。
夢、か。蒼士郎くんの口から初めて聞く単語だな。


「20代のうちに家を建てたい」


続く言葉に私は目を丸くした。
バーテンダーとして独立して自分の店を持ちたいとかじゃなくて、ずいぶん現実的な目標で拍子抜けした。

だから古くて不便でも安いアパートに住んで節約頑張ってたのか。
人気店に勤めてるから、そこらのサラリーマンより稼いでるはずなのになんでだろうと思ってたけど。

前に友達の付き添いで別のバーに言った時に店員さんが言ってたんだよね。
“土井さんのお店はかなり稼いでますよ、年商6000万は下らないんじゃないかな”って。
実際マスターに聞いてみたらおかげさまで、と笑ってたし。


「珍しい……のらりくらりと生きていたいタイプかと思った」

「バーテンの悪いイメージで俺を構成しないで」

「ごめん、今のは私が悪かった」


蒼士郎くんがしっかり将来を見据えているとは思わなかった。
口を滑らせるとムッと目を三角にする。
表情豊かでかわいい、なんて煩悩は捨て去ってすぐさま頭を下げると頭を撫でられた。


「けどひとりで住むのは違う気がして、結婚してから、なんて考えるけど絶対離したくないって思うほど夢中になれる人に出会えなくて」


蒼士郎くん、その言い方だとまるで私が絶対離したくない運命の人ってことにならない?
ちょっと待って。面と向かって愛を囁かれる心の準備ができてない。
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