悪魔は夜に笑う
「8年通ってるけどこのシチュエーション初めてです!」


興奮してその男性に話しかけてしまった。
よくよく見るとタレ目で泣きぼくろが色っぽいイケメンだ。


「すみません、飲みっぷりがいいなと思って」


申し訳なさそうに「よかったらどうぞ」なんて笑う彼。
茶目っ気のある笑顔に悪い人じゃなさそうと判断して私も話しかけることにした。


「ありがとうございます。いただきます。このお店初めてですか?」

「1回来たことあるんですけど、ひとりで来たのは初めてです」

「じゃあせっかくだから私のおすすめも飲んでください。蒼士郎くん、モスコミュールを彼に」


バーで生まれる交流は男女問わず楽しい。下心はまったくないけど私も気取って蒼士郎くんにオーダーした。

蒼士郎くんは「かしこまりました」と言った後、一瞬鋭い目付きで男性を見た。
接客中に感情を出すのは珍しい。何か言いたげな表情に見えた。


「お隣いいですか?」


気になったけど男性に声をかけられたから考えるのはやめた。
どうぞと笑顔で応えると、はにかみながら彼は隣の席に座った。


「常連の方なんですね」

「はい、週2で通ってます」


彼は北島と名乗った。IT企業でコンサルをしているらしい。


「前から失礼いたします。モスコミュールです」


会話をしていると蒼士郎くんが彼の席にグラスを静かに置く。
北島さんは私にいただきますと言ってグラスに口をつけて驚いた顔をした。


「甘くなくて飲みやすい」

「おいしいですよね。発酵させて作るジンジャービアを使ってるんですって。しかも自家製の生姜漬けウォッカだからより味に深みが出ておいしいんですよ」


店員レベルに味の説明をすると北島さんは「さすがです」と笑った。
なんか、もしかして私たちいい雰囲気?
もしかしてここにきてキューピット卒業の予感?

それから話が盛り上がって、最終的に連絡先を交換した。
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