悪魔は夜に笑う
「愛結那さん、いい時間だけど明日お仕事は?」

「ふっふーん、明日有給消化でお休みなんです」


ところで私がまだ居座っているのは明日が休みだからだ。


「有給10日分があと3ヶ月で消滅するから使わせてもらってるんです。お盆休み取ってもなお余る」


さすがにそろそろお暇しようと思ってるけど、居心地が良すぎて長居してしまう。
けどそろそろ帰らないと、魔の手が忍び寄ってくる。


「ずっと人手不足でうちの部署から応援に行ってたから有給取る暇がなくて。でもようやくその状況から脱出できました」

「余裕できたなら締め作業くらい手伝ってくれてもいいですよ」


やっぱり。蒼士郎くんが話しかけてきた。
相変わらずヒマになると私に絡んでくるよね。


「お世話になってるからお店の清掃くらいならするよ」

「そうですね。少しは動いてカロリー消費しないと」


そして人の揚げ足を取って反応を楽しんでいる。
最近分かった。私が関西人でこういういじりをすぐ拾ってしまうからいけないんだ。
よし、今日はあえてじとっと蒼士郎くんを見つめてみよう。


「変顔ですか?ちょっとパンチが足りないですね」


ただ目を細めただけなのに変顔とか言われた。
ここで言い返したら思うつぼ。耐えるんだ愛結那。


「蒼士郎くん」


すると様子を見ていたマスターが、私と同じ顔で蒼士郎くんに視線を飛ばした。
同じ表情なのに蒼士郎くんは少し目を丸くした。さすが恩師で雇用主。彼の扱いはお手の物だ。

その後私に向き直り「俺のこと嫌いにならないでください」と頭を下げた。


「違うよごめんなさいでしょ」


謝ると思ったら見当違いの文言が口から出てきて、マスターが笑い出したから私も笑ってしまった。
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