悪魔は夜に笑う
今宵もこうして楽しい時間を過ごせると思ったら、今日はマスターが早上がりするらしい。
確かに以前、蒼士郎くんにお店を任せられるようになったから早く帰れる日は交互に帰ってるって言ってたな。

まずい。マスターと一緒に帰らなければ蒼士郎くんとふたりきりになってしまう。


「あゆなさん、何か飲まれます?」


しかし帰りますと宣言しようとした瞬間、蒼士郎くんに次の一杯を訊かれた。
まるで引き留めようとでもするみたいな聞き方だ。

顔を合わせると、どことはかなく悲しげな顔をしている。
口をきゅっと結んで帰らないで、とでも言われているような。
演技だとしても刺さる表情に負けた。


「じゃあ、蒼士郎くんのおすすめで」


こうして私は帰宅を諦め、マスターは帰り支度をするためにバックヤードに向かった。


「開店前、俺が絡まれてたの見てたでしょ」


蒼士郎くんはグラスに視線を向け、最後の一杯を作りながら尋ねてきた。
マスターが帰る前にその話題を出してくるとは。
妙な緊張感が漂い、私は返答に困った。


「あ……ごめんね間が悪くて」

「あれ見てなんとも思わないの?」


蒼士郎くんと関係を持った以上、なんとも思わないわけがない。
だけど、ようやく蒼士郎くんのことを嫌いになれる要素を発見したかも、なんて心のどこかで喜んだなんて絶対に言えない。

女関係にだらしない男ならきっぱり諦めきれたのに、あの態度を見るに違う気がする。
蒼士郎くんは賢いから人を選ぶ。
職場に押しかけてくるような女を遊び相手にはしないだろう。
トラブルを起こしそうにない、お利口で都合のいい女を見極めて唆す。

実際蒼士郎くん数年前に自分で言ってたし。
“メンヘラかそうじゃないか見極めるの得意なんです。だから俺は絶対刺されない”って。
さすが3Bの一柱、バーテンダーだなと感心したのを思い出す。

「逆に聞くけど私にどういう態度取って欲しいの?」

だからこそ私に迫る理由が分からない。
ここは様子を伺いつつ冷たい態度で接してみるか。
蒼士郎くんどういう態度を取るだろう。
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