悪魔は夜に笑う
「どう足掻いても、誰も私のこと見てくれない」

「こんな弱ってるあゆなさん見るの初めて」


しかし慰める訳ではなく、興味津々に顔を覗きそんでくる。
人の泣き顔凝視するなよ。思いやりってのがない。やっぱり性格悪いな。


「私だって、落ち込む時くらい、あるの」

「あゆなさん、俺も男なんだけど」

「だから?」

「弱みを見せられたら、つけ込みたくなる」



顔を見られたくなくて、下を向いて脱力していると不意に顔を掴まれて視線を上げられた。
おそらく蒼士郎くんと目線が合ってるんだろうけど、カウンターの下は光が届かず、酔いと涙で視界がぼやけてよく見えない。

一層暗くなったと思ったら、唇に違和感を覚えた。
柔らかくてあたたかいものが当たっている。
あれ、なんで蒼士郎くんにキスされてるの?
もしかしてこれは夢で、私の本能的な願望の顕れだったりして。

だってありえない、こんな展開。


「んぅ……」


だけど舌を入れられた感覚が妙にリアルで。
自分の驚いた声に正気に戻った。

夢じゃないならより意味がわからない。
なんで私に恋人にするようなキスしてんの。


「ふは、酒臭い」


吐息がかかるくらいの距離で蒼士郎くんは笑う。
そして私に手を差し伸べて立ち上がらせると、抱きしめて首筋にキスをしてきた。
リップ音が響くたびに頭がくらくらする。

待って、やっぱり夢じゃない?私の知ってる蒼士郎くんはこんなこと絶対にしない。
デメリットを考えたら、私のことを抱くはずがない。


「ホテル行きません?」


だけど続く言葉に予想を裏切られた。
酔いのせいで理性のブレーキが効かない身体はその気になってしまっている。

断らなきゃいけないのに逃げる意思がまるでない。
この場での沈黙は了承と同じなのに。


「行こっか、あゆなさん」


こうして私は悪魔に連れ去られ夜の街に繰り出した。
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