悪魔は夜に笑う
「やっと落ち着きましたね」


閉店時間30分前でようやくカウンターが私ひとりになった。
さすがの蒼士郎くんもカウンター内で赤嶺くんにぼやく。

いつも淡々と仕事こなして私にちょっかいかけてくるけど、今日は話しかけられることもなかった。


「今日もやりがいがあって楽しかったな」


しかし赤嶺くんがポジティブなことを言うから“マジかよ”って顔して私に目配せした。


「この人こういうことマジで言うんですよ」

「知ってる。蒼士郎くんも見習ったら?」

「赤嶺さんは別格でしょ。体力も気力もお化けだから」


ため息をつく蒼士郎くん。するとテーブル席から「すみませーん」と若い女性の声がした。
赤嶺くんが元気よく返事をして向かう。ところが女性客と短く会話をした後すぐ戻ってきた。


「あちらのお客様が蒼士郎と連絡先交換したいって」


蒼士郎くんに近づいて耳打ちをする赤嶺くん。
しかし普段騒がしい海の家で働いている影響だろうか。
全然こそこそ話になってない。私には丸聞こえだ。

蒼士郎くんが女絡みが多いのは今に始まった話じゃないけど、こうやって目撃すると嫌な気分になる。
しかし、目の前の綺麗な顔がだんだん歪んでいく様子を目の当たりにして安心してしまった。
向けられた好意に対して明確な拒否を示している。

だけどやめなさい。露骨に嫌な顔をするな。
私が壁になって向こうから見えないからってその顔見られたらお客さん傷つくよ。


「断ってください」


蒼士郎くんが低い声で言うと「分かった。うまく断っておく」と笑顔で返答する赤嶺くん。
いいヤツだな。蒼士郎くんと違って嫌な顔ひとつしないなんて。
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