悪魔は夜に笑う
「夏の新作です。あゆなさんどうぞ」


蒼士郎くんが差し出してきたのは、綺麗なエメラルドグリーンのカクテル。


「……頼んでないんですけど」

「俺からのサービスだからまだ帰らないで」


お会計しようとしてたのになんで引き留めようとするの。
サービスってなに。今までそんなことしたことないくせに。
優越感が後ろ髪を引いて断れない。私は仕方なく座り直した。


「綺麗な色……柑橘系?」


宝石のようにきらめくカクテルを持ち上げて観察する。匂いは爽やかな柑橘系だ。


「ブルーキュラソーと炭酸水と野菜ジュース」

「野菜ジュース!?」

「ブルーキュラソーってオレンジ風味だから合うんだよ」

「ほんとだ、おいしい」


カクテルに野菜ジュースって斬新だな。しかし飲んでみると野菜ジュース感は一切なく香りに高級感すら漂っている。
これがバーテンダーマジックってやつかな。


「あゆなさん、さっき俺が連絡先断ってほっとした?」


すると蒼士郎くんが突拍子のないことを言うから飲み込もうとしていた液体が気道に入りそうになった。
むせかけた私を見て蒼士郎は目を細めてご満悦。


「分かりやすくてかわいいね」


それはこちらのセリフだ。最近の蒼士郎くんは分かりやすいにもほどがある。
でも、不特定多数の人がいる場所でその笑い方しないで。
独占したいほど魅力的なんだから。


「仕事中に口説いてこないで」

「ふはっ、照れ隠し下手くそ」


魅了されてしまえば最後、普段通り軽口を叩くことすらできなくなってしまう。
ああもう、この男は本当に油断ならない。
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