ビハインド・ザ・バック ~彼に狙われたら逃げられない~
 ファールになった手球はフリーだから、どこにでも置ける。
 私はポケットからまっすぐのライン取りをして手球を置いた。
 そこへ、鷹羽君が言う。

「ちょっとアドバイスしてもいい?」
「お願いします」

 答えると、彼は後ろから覆いかぶさるようにしてキューを持った。

 ええええええ!?
 私は顔をひきつらせた。まるでバックハグじゃない!?

 硬直していると、彼の手が私のブリッジしている左手に添えられる。
「こうして。ちょっと下めで」

 背中から手から、彼の熱が伝わって気が気じゃない。私の顔のそばには、彼の顔。少しでも動くと頬と頬がぶつかりそう。

 今までこんなことされたこと一度もないのに。
 心臓がばくばくするのを抑えられない。

「あいつに負けたくないから。頼んだよ」
 耳元でささやかれ、かーっと顔が熱くなる。

「うわ、やばあ……」
 門田さんが両手で顔の下半分を覆うのが見えた。その目は、いいものを見た、と満足げだ。

「離れろよ。セクハラだろ」
 丸野くんが怒ったけど、私はそれどころじゃない。

 狙いを固定すると、そっと鷹羽くんが離れた。
 心臓の激しい鼓動が手に伝わって震えてしまう。
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