ビハインド・ザ・バック ~彼に狙われたら逃げられない~
「仕事が終わったら行きます?」

 思いがけない提案に、私はどきどきした。
 またあの背面ショットが見られるだろうか。

「初心者だけど、よろしく」
 私が答えると、鷹羽くんは嬉しそうに目を細めた。



 それからなんどか、彼とビリヤードに出かけた。

 連絡先は交換したけど、連絡は最低限。ビリヤードに行くかどうか、いつ行くか、そんな確認だけ。
 会社でも必要最低限しか話さない。秘密の関係っぽくてスリリング。

 彼はビリヤードのときはオスみが全開でどきっとする。
 垂れた前髪に、鷹のように獲物を狙う鋭い目つきがたまらない。引き締まった体に、キューを構える筋肉質な腕。

 ポケットを狙ってはずしたのを見たことがない。すごい技量だ。

 一番ぞくっとするのは、背面ショット。ビハインド・ザ・バックというらしい。単にバックハンドともいうらしいけど、彼には『ビハインド・ザ・バック』が一番似合う。

 普段は見られないアンバランスな姿勢。すべての集中がテーブルに向かっているから、セクシーな胴体ががらあきで無防備。左手で作られたブリッジがキューにからむのも、何とも言えずなまめかしくて病みつきだ。

 狙いが定まると繰り出されるキュー。撞かれた手球は滑るようにラシャの上を走り、的球に当たってカチン、とはじかれる。これがいつも小気味いい。

 毎回背面打ちしてくれてもいいのに、と思うけど、希少性がなくなるのも惜しい。

 普通のショットもかっこいいし、と、極上のかっこよさが見られないのを通常のかっこよさで我慢するという、よくわからない状態が発生した。

 貴重な姿を写真に収めたいけどそれもできない。もう天然記念物か世界遺産か。――うん、わたし的世界遺産に決定。
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