【異世界恋愛*短編集】変わり者の令嬢はハッピーエンドをつかみ取る
 それから十年。

 クラウディアとスタンリーは、貴族学院の最終学年を迎えていた。
 クラウディアは十八歳。スタンリーは同学年ではあるものの、冬生まれのため一つ年下の十七歳だった。

「――ねえ、聞こえるクラウディア? あなたの婚約者様がまた、後輩に剣の稽古をつけていらっしゃるみたいよ」

 すごい熱の入りようね、と感心する友人のメイジーに、クラウディアははちみつ色の瞳をまたたかせた。耳を澄ませるように小首を傾げ、やがておっとりとうなずく。

「……ええ、本当ですね。気合いのこもったお声が、ここまで響いてきます」

 放課後、花の咲き誇る学院の中庭で、仲良しのグループで茶会を楽しんでいる最中だった。
 剣術の訓練場は中庭の小道を抜けた先にある。クラウディアがそわそわとそちらを振り返りだしたのに気づいて、メイジーと友人たちはいたずらっぽく顔を見合わせた。

「クラウディア、中座してスタンリー様の応援に行って差し上げたらどう?」

「いえ、でも……」

 もじもじと制服のスカートをいじるクラウディアを見て、メイジーがすかさず立ち上がる。

「わたくしが付き添ってあげるわ。どうぞ皆さんはお茶会の続きを楽しんでいらして」

「行ってらっしゃいな、クラウディア。メイジー」

 朗らかに見送ってくれる友人たちに手を振って、クラウディアとメイジーは木々の間の小道を急ぐ。
 スタンリーの鋭い怒声はどんどん大きくなって、やがて二人は訓練場を見下ろせる小高い丘の上に出た。

「――ようし、そうだ良くなったッ! しっかりと相手の攻撃を見極めろッ!」

「はいッ!」

 ガツッ、と木剣のぶつかる鈍い音が聞こえ、メイジーは思わずといったように首をすくめる。
 しかしクラウディアは夢見心地で歩を進め、木の柵にほっそりした両手を載せて、食い入るようにスタンリーの姿を目で追った。

 隣に立ったメイジーが、くすりと小さく笑みをこぼす。

「クラウディアはこんなにもおしとやかなのに、本当に戦闘訓練を見るのが大好きなのねぇ」

「……ええ。はい……」

 はしたなく身を乗り出していることにようやく気づき、クラウディアは顔を赤らめた。

「子どものころからずっと、本を読むのが大好きなのです。ほんの小さなころは魔法を題材にした絵本を読みあさり、もう少し成長してからはわくわくと胸のときめく冒険物語、そして今は……」

「格好いい騎士たちの物語に夢中ってわけね」

 二人は視線を交わし、ふふっと笑い合う。

 実家にいるころからクラウディアは本の虫で、それはアイゼル侯爵家に居を移してからも変わらなかった。
 体を動かすのが好きで活発なスタンリーと、おとなしくて家にこもるのが好きなクラウディア。正反対の二人は、十年来の婚約者とはいえ打ち解けているとは言いがたかった。

(……それでも……)

 クラウディアは一心にスタンリーだけを見つめ続ける。
 スタンリーの振るった木剣が、後輩の手にあった木剣を弾き飛ばした。頬を上気させて勝利を宣言するスタンリーに、クラウディアは音を立てないようにこっそり拍手を送る。

「ああもう、こちらを振り返りもしないのね。全然気づいてないんだわ」

「……ここは、丘の上ですから。わざわざ見上げなければわかりません」

 ()れたようにこぼすメイジーに、クラウディアは静かに首を横に振る。

 訓練場のスタンリーは、疲れているだろうにすぐさま次の相手を指名していた。
 肩で息をする彼が心配になり、クラウディアはそっとため息を落とした。遠慮がちにメイジーの袖を引き、「帰りましょう」とささやきかける。

「あら? 今来たばかりなのに、もういいの?」

 目を丸くするメイジーに、クラウディアはうなずいた。

「はい。スタンリー様の勇ましいお姿が見られたので、充分に満足しました」

「あらそう。ご馳走様」

 くすくす笑い合いながら、二人は訓練場を後にした。
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