サヨナラを言う準備は出来ていた。
前はどうやって息をしていたんだっけ。
受験勉強が始まる前、中学二年の夏までは、たぶん普通に息を吸えていた。体は常に軽かったし、走ればどこまででも行ける気さえしていた。
あの頃の私は無敵だったように思う。
いまはもう、まともな息の仕方も、走り方すら忘れてしまった。
「矢部」
ずぶずぶと、暗い思考に沈みかけていた私を引き留める声がした。
顔を上げると、スポーツバッグを肩にかけた男子生徒が廊下に立っていた。
「笹森くん……」
真っ黒に日焼けした、凛々しい顔。固そうな黒い短髪に、新入生の中ではひと際目立つ立派な体つきの彼は、笹森涼平。
この南高で唯一、同じ中学から進学した知り合いだ。
「クリーニングのタグ、つけっぱなし」
首の後ろをトントンと示す笹森くんに、ハッとして私は自分の首の後ろに手をやる。
カサリと指先に触れた感触に、顔が少し熱くなった。
受験勉強が始まる前、中学二年の夏までは、たぶん普通に息を吸えていた。体は常に軽かったし、走ればどこまででも行ける気さえしていた。
あの頃の私は無敵だったように思う。
いまはもう、まともな息の仕方も、走り方すら忘れてしまった。
「矢部」
ずぶずぶと、暗い思考に沈みかけていた私を引き留める声がした。
顔を上げると、スポーツバッグを肩にかけた男子生徒が廊下に立っていた。
「笹森くん……」
真っ黒に日焼けした、凛々しい顔。固そうな黒い短髪に、新入生の中ではひと際目立つ立派な体つきの彼は、笹森涼平。
この南高で唯一、同じ中学から進学した知り合いだ。
「クリーニングのタグ、つけっぱなし」
首の後ろをトントンと示す笹森くんに、ハッとして私は自分の首の後ろに手をやる。
カサリと指先に触れた感触に、顔が少し熱くなった。