サヨナラを言う準備は出来ていた。
笹森くんは言いかけて、途中で口を閉じた。
真剣な顔で何か考えたあと「花火が始まる時間までは、いいんじゃねぇの?」と小声で言う。どこか諦めているような言い方だった。
「うん。でも、遅れたくないから」
「……そうか。そうだよな。わかった」
笹森くんは小さく笑ったのに、なぜか彼が傷ついているように見えた。
申しわけなさと安堵。その両方が私の胸の中で、ぐるぐると渦を巻く。早く、帰りたい。
「ごめんね。せっかく誘ってくれたのに」
「いや。こっちこそごめん」
「じゃあ……部活、がんばって」
気まずさから逃げるように、玄関に足を向ける。
笹森くんは廊下を曲がって、連絡通路から外に出て部活に向かうはずだ。
やっとこの気まずい会話を終わらせられる。そう思いかけた私を、笹森くんは再び呼び止めた。