サヨナラを言う準備は出来ていた。
「矢部。大丈夫か?」
「……どういう意味?」
「そのままの意味だよ。何か困ったことがあったり、つらいことがあったら言えよ」
頼もしいことを言うと、笹森くんは白い歯を見せて笑った。
大人びた彼のイメージとはちがう、いたずらっぽい笑顔だった。
「この高校で同中なの、俺らだけだろ」
「そう……だね。ありがと」
「おう。じゃあな。気をつけて帰れよ」
ボストンバッグを肩にかけ直し、笹森くんは廊下を曲がり去っていく。
その背中の大きさに、頭の位置の高さに、何か寂しい風が胸の真ん中を通り過ぎていくのを感じた。
中学の頃は、結星と同じくらいの身長だったのに、と。
ふと窓の外を見ると、グラウンドに集まる陸上部員の元に駆けていく、岡本さんがいた。
青いジャージの背中にプリントされた【南高陸上部】の文字が、白く強く輝いていた。