サヨナラを言う準備は出来ていた。


この夏最初の花火が打ち上がり、俺はマンションのベランダに降り立った。
ざらざらと砂っぽいサンダルを引っかけて、手すり壁に寄りかかる。
隔板の向こう、隣の部屋のベランダを覗きこむと、あいつがいた。

赤ん坊の頃からの幼なじみ、矢部那月。
那月の肩より伸びた黒髪が、夜の風にさらさらと揺れる。
那月の手には、俺の知らないスマホ。新しいのに替えたんだな。ぼんやりと画面を見つめる横顔が、花火に照らされ赤に黄色に輝いていた。


【やっぱ来ない? 待ってる】


そんなメッセージが映し出されているスマホの画面が見えてしまい、どきりとする。
那月の横顔をうかがったけど、何を考えているのかは読めなかった。
ふと、那月が何かに気づいたようにこっちを向いた。俺を見つけて、那月の顔が花火が弾けるように輝く。

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