サヨナラを言う準備は出来ていた。
「結局、陸上部には入らなかった。でも、しつこく勧誘してくる子がいてさ。ほら、覚えてる? 県大会の決勝で私と競ってた、緑中の岡本さん。背が高くて手足の長い、ショートカットの子。何回も断ってるのに全然諦めてくれなくてさ。すごくグイグイ来るの。あれ、結構困るんだよね」
ショートカットの岡本さんのことはまったく覚えていないけど、那月はわりとはっきり物を言うタイプなのに、その那月でもあしらい切れない相手って確かにすごいな。
余程打たれ強いか、空気が読めないか、それだけ真剣に岡本さんが那月を求めているのか。
それくらいは、那月もわかっているだろうけど。
「やっぱり……結星がいなくても、北高に行けばよかったかなぁ」
那月の呟きと一緒に、パラパラとたくさんの火花が街に落ちていく。
あまり「こうすれば良かった」「ああしておけば良かった」というような後悔は口にしない那月なので、その珍しい愚痴に俺は黙って耳を傾ける。
「同中の子が全然いないから、気楽かなぁって思ったんだけど。案外そうでもなかったっていうかさ」