サヨナラを言う準備は出来ていた。
「なかなかいないよ、あんな優しい奴。そういう感謝の気持ちはさ、伝えられるうちに伝えておいたほうがいいと思うな」
「……そう、だね」
「東京行っちゃったらさ、そう会えなくなるもんね」
「……え?」
東京? どうして突然、東京?
私の反応に、紗和は「しまった」といった顔で口を手で覆った。
「え……まさか、聞いてないの?」
「聞いてないって、何を? 東京に行くの? 笹森くんが?」
「うわー……まじか。何であいつ言ってないの?」
沙和はしばらく頭を抱えて唸っていた。
やがて姿勢を正すと、声をひそめて教えてくれた。
「笹森、東京の大学サッカー部から声かかったんだって」
胸の奥で抑えこんで蓋をしていたものが、音を立てて動いたのを感じた。