サヨナラを言う準備は出来ていた。
高校3年・夏



この夏最初の花火が打ち上がり、俺はマンションのベランダに降り立った。
ざらざらと砂っぽいサンダルを引っかけて、手すり壁に寄りかかる。

隔板の向こう、隣の部屋のベランダを覗きこむと、そこは無人だった。
ベランダが花火に照らされ赤に黄色に輝いた。
前回を思い出し床に目をやるが、やっぱりそこには誰もいなかった。

那月がいない。
そうか、終わるのか。
何も伝えられないまま、約束は終わるのか。

冷たい風が心に吹いた時、カラカラと隣の窓が開かれる音がした。
現れたのは、赤ん坊の頃からの幼なじみ、矢部那月だった。

ほっとしてその顔を見ると、那月は泣いていなかった。笑っても、いなかった。
真剣な顔でただ、俺を見ている。
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