サヨナラを言う準備は出来ていた。
8年後・夏
☽
花火の打ち上がる音がして、私は慌ててベランダに出た。
転びそうになりながらサンダルを足に引っかけ、手すり壁に寄りかかる。
恐る恐る隔板の向こう、隣の部屋のベランダを覗きこむと――。
「……やっぱり、いないか」
花火に照らされ、ベランダの壁が赤に黄色に輝いていた。
自嘲しながら、無人のベランダから大輪の花が咲く夜空へと視線を移す。
出産で東京から里帰りしていた私は、今年の夏祭りも実家で過ごせたことにほっとして、期待していた。
今年だけじゃない。私は何だかんだ理由をつけては、毎年この時期には実家に戻ってきている。
でも、あれから一度も、幼なじみの結星には会えていない。
私が約束を破った最後の夏祭りから、一度も。
当たり前だ。そうなるだろうとわかっていて、私が決めたんだから。