サヨナラを言う準備は出来ていた。
赤、黄色、緑と、カラフルな花火が夜空に弾けるのを、ひとり眺める。
あの夜の自分の選択を、後悔はしていない。
私はいま幸せだし、自分より幸せにしたい存在もできた。
でも、寂しさが未だに胸の奥で眠らずにいるのも本当。
会いたいと、大切な幼なじみを求めている心も本当。
だから私は、もう会えないとわかっていても、どうしてもこの日だけはここに帰ってきてしまう。
優しい夫はそれを許してくれる。仕方ないなと。
その優しさに甘えて、私は来年も再来年も、やっぱりこの日はここに帰ってくるだろう。
残り火がパラパラと落ちていく音の中、背後から小さな泣き声が聞こえてきた。
「那月~! 結ちゃん泣いてるよ~!」
キッチンで料理中のお母さんが呼んでいる。
「はあい」と返事をして中に戻ろうとした時。
『那月』
続けてふたつ鳴り響いた音の合間に、名前を呼ばれた気がした。
振り返り、隔板をじっと見つめる。
でも誰もいない。気配も感じない。