ゆっくり紡ぐ、愛の言葉
コンサートが始まり、愛斗は客席からステージに立つ美登里たちの歌に耳を傾けた。3時間にわたる公演が終わると、LINEで楽屋へ来るように連絡が入ったので、すぐに向かった。楽屋に入ると、美登里、知可子、明子の三人が帰り支度をしているのを待ち、全員が準備を終えるのを確認してから、四人で近くの居酒屋へと足を運んだ。
席に着くとメニューを広げ、焼き鳥の盛り合わせ、野菜サラダ、刺身、だし巻き卵、天ぷらなど、次々と料理を注文した。運ばれてくる料理を愛斗もゆっくりと味わい、仕事の話や今日のステージの感想など、和やかな時間が流れた。
食事を終えて店を出ると、夜の街灯が道を照らしていた。
「え、こんな時間に一緒に歩いていたら、誰かに見られちゃうよ」と美登里が少し心配そうに言うと、愛斗はにっこり笑って答えた。
「別にいいよ。そんなの気にしないし」
「わかった、ありがとう」
四人で駐車場へ向かって歩き出したその時、突然後ろから声がかかった。
「おい、愛斗! 久しぶりじゃん、元気だったか?」
振り返ると、そこには関ヶ原が立っていた。愛斗は冷たい目で見返し、はっきりと言い放った。
「話すことなんて何もない」
関ヶ原は愛斗の隣にいる美登里たちを上から下まで見回し、下品な笑みを浮かべた。
「へえ、隣にいるそのおばさんたちは誰だ?」
愛斗は美登里の肩をそっと抱き寄せ、毅然と答えた。
「この人は俺の彼女だよ」
関ヶ原は目を大きく開け、すぐにまたからかうような口調に戻った。
「えっ、この人? どっかで見たことあるような… おばあちゃんみたいで色気も何もないな」
隣にいた知可子が眉をひそめる前に、明子が前に出ようとするのを愛斗が手で制した。
「愛斗くんのお友達なの?」と美登里が静かに問うと、愛斗は首をに振った。
「違うよ」
関ヶ原はますます調子に乗り、声を大きくして周りに聞こえるように言った。
「俺、昔こいつのこといじめてたんだよ。そんなに弱っちいくせに、彼女なんてできるなんてな。全然可愛くもないし、綺麗でもない。そんなばあさんより、若くてぴちぴちのお姉ちゃんの方がいいだろ? こんなおばさん、さっさと別れちまえよ。それに三人もおばさんと何してたんだ? もしかして3Pでもしてたのか?」
下品な言葉が次々と吐き出される。
「3Pだって? エロすぎだろ。こんな年いったおばさんの体なんて、ぬめりも張りもなさそうだな」
横にいた連れらしい男が笑いながら相槌を打つ。
「たしかにな」
「で、感想はどうなんだ?」
その瞬間、愛斗の中で何かが切れた。一歩踏み出すと、関ヶ原の胸元を強く掴み、鋭い目で睨みつけた。
「そんなこと、絶対にしないよ、俺は。人を見下して汚い言葉で悪く言うな!」
関ヶ原は動じず、まだからかうように言う。
「じゃあおばさんが彼女なんて、お前こそ可哀想だな」
「いいよ、お前にはわからなくて」愛斗は怒りを抑えながら、はっきりと言い返した。「だって、もし俺に好きになられたら困るだろ? お前なんかに、俺が好きになる価値すらないんだから。俺の彼女は綺麗で、心が優しくて、俺にとって何よりも大切な人だ。お前みたいな心の汚い奴に、彼女の魅力がわかるはずもない。今度これ以上悪く言ったら、絶対に許さないからな」
関ヶ原は逆上し、手を上げて殴りかかろうとした。だが愛斗はその手を掴み返し、力任せに関ヶ原の体を近くのコンクリートの壁へと叩きつけた。騒ぎを聞きつけた通行人が警察に通報し、すぐにパトカーが到着。関ヶ原は脅迫と暴行未遂の疑いでその場で逮捕され、連れ去られていった。
騒ぎが収まると、愛斗は三人の前に頭を下げた。
「今日はこんな嫌な思いをさせてしまって、本当にごめんなさい」
美登里はすぐに愛斗の手を取り、柔らかく微笑んだ。
「愛斗くんが悪いんじゃないよ。全部あの人が悪いの」
知可子も頷き、明るい声で言う。
「そうだよ。悪いのは下品なことばかり言ってくるあいつだから、全然気にしないで」
「本当に大丈夫だから、謝る必要なんてないよ」と明子も優しく続けた。
愛斗は少し緊張が解け、ほっとした表情で答えた。
「ありがとうございます…」
すると美登里が少し不思議そうな顔をして、愛斗の腕を軽く引いた。
「ねえ、さっきあの人が言ってた『3P』って何? なんだかエロい言葉だったみたいだけど…」
知可子も首を傾げ、明子も「私もよくわからないわ」と呟いて、三人で不思議そうな顔を見合わせるのだった。
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