ゆっくり紡ぐ、愛の言葉
二人はミニストップで知可子と篤と美登里と一緒にいると
警護のSPを伴った有村治子議員が店内へ入ってきた。
「あら、有村議員さん。こんな場所でお会いできるとは思いませんでした」
愛斗が足を止めて丁寧に挨拶すると、治子は穏やかな笑みを浮かべて近づいてきた。
「郵便でお送りしようと準備していたものがあったのですが、ちょうどこの近くで用事がありまして。直接お渡しできるならと立ち寄りました」
そう言ってバッグから取り出したのは、小さな袋に入ったマタニティマークのキーホルダーだった。
手のひらに収まるサイズながら、丸い形の中に「お腹に赤ちゃんがいます」とはっきりと記されている。
「これをどうぞ。外出の際にバッグなどにつけておけば、周りの方にも妊婦であることが伝わり、配慮していただきやすくなりますよ」
愛斗は深く頭を下げ、隣に立つ美登里を紹介した。
「ありがとうございます。こちらが、先日インスタライブでも報告した私の恋人、辛島美登里です」
美登里も柔らかく会釈する。
「初めまして、辛島美登里です。こんなに大切なものをいただけて、心から感謝しております」
知可子と小野澤篤も紹介して簡単な挨拶を交わした。
治子は「これから少し買い物をしていきますね」と言い残し、SPと共に飲み物や軽食の棚へと向かっていった。
四人は店の隅に移り、テーブルの上に置かれたキーホルダーを見つめていた。やがて知可子が不思議そうな表情で口を開く。
「愛斗くん、美登里ちゃん。マタニテマークどうして議員さんにお願いしたのマタニティマーク鉄道の駅、ベビー用品店、航空会社のカウンターで取りに行かせたの
「そうだ。自分で簡単に手に入るものなのに、わざわざお忙しい議員さんに頼む必要があるのか、私も不思議に思っていた」
二人の問いかけに、愛斗と美登里は顔を見合わせ、ゆっくりと答え始めた。
「いえ、私たちからお願いしたわけではないんです」
愛斗が静かに言葉を紡ぐ。
「実は有村治子さんこそが、このマタニティマークを日本で最初に考案し、普及させた方なのです昔有村議員が選挙事務所で働いていて愛斗くんもパパになったときはあげるねと約束してましただから有村議員からもらいました」
「昔は、お腹の大きさが目立たない妊娠初期の方が、体調が急に悪くなっても周囲に気づいてもらえず、電車の中などで困ることが多かったそうです。治子さんはそんな妊婦たちの声を聞き、『一目で状況がわかるマークがあれば安心できるはず』と、このデザインと制度を作り上げてくださったのです」
「妊婦と赤ちゃんを守りたいという強い思いが形になったもの。私たちが頼んだのではなく、生みの親である治子さん自身が、『本当に必要としている人に直接届けたいと、わざわざ足を運んでくださったのです」
知可子と篤は、それを聞いてはっとしたようにキーホルダーを見つめ直した。
小さな印に込められた歴史と優しさが、今初めてはっきりと理解できたようだった。
「そうだったの… 何も知らずに失礼なことを言ってしまったわ」知可子は申し訳なさそうに笑う。
「なるほど、作った本人から直接受け取るなら、それだけで特別な意味が生まれる」
「大事に使わせてもらわないとな」
美登里はキーホルダーを手に取り、自分のバッグの持ち手にそっと取り付けた。丸いマークが、店の明かりを受けて柔らかく光っている。
「これから外出するときも、このマークが私たちを守ってくれるような気がします」
その言葉に、愛斗は隣に寄り添い、美登里の肩を優しく抱き寄せた。温かな空気が、小さなコンビニの一角に静かに満ちていった。
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