自惚れ、アディクト
花菱から依頼を受けた案件について、納期を確認したところで、電話向こうの爽やかな声がくぐもった。


『それと、大変申し上げにくいんですが……』
「はい」

あ゛〜…嫌な予感しかしねぇ。

伸びきった前髪をくしゃ…と掻き上げる。隣のデスクに座る後輩が、ペンを走らせる俺に不安げな視線を寄せた。

『先生から修正が入って』
「……そうですか(ゔっわ。マジか)」

花菱が言ってるのは、一週間前に三校を送った装丁のことだ。色味が暗いのでもう明るくしてほしい。ヒロイン・ヒーローの等身を見せたいので、全体を引いてほしい。タイトルロゴを真ん中に。……等。

最初の打ち合わせで、顔から上半身のアップを指示してきたの、そっちじゃね?

「…………(せめて初校の時点で言っとけって)」

喉の奥から出かかったものを呑み込んだ。
相槌を打つだけの俺に、花菱が言葉を選びながら慎重に話し続ける。

『ミズキ先生としましては……』

その名前に内心、頭を抱えた。

ハンサムくんが“対応に困る”ってこの間、愚痴ってたの、このセンセイか。

『……ですので、無理を言うのは承知なのですが、タイトルの配置を……』

「…………(じゃあ、仕方ねぇな)」

電話が入った時点で覚悟はしていたので腹を括る。

「花菱さん、いいですか?」
『はい』

要望を聞きつつ、こちらも代案をする。
三校でやり直しかけてきてんだから、そのくらい許してほしい。いや、許せや。

最後、デザイナーに連絡しておくと伝えて電話を切った。黙々と作業していた後輩が、手を止めて俺を見やる。

「……先輩、お疲れ様でした(長電話こわい…絶対ヤバいやつじゃん。わたしだったら無理、吐く)」

「どーも」

と、瞳を細めた。俺はセミロングの黒髪をポニーテールに結ぶ。瞬間、後輩の顔色が、さぁっと青ざめた。

「!!(怒ってる〜…っ。目にハイライトがない)」


今日は残業確定だな。タバコ行ってこよ。
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