自惚れ、アディクト
美園さんが来るまで場繋ぎの世間話をする。
当たり障りのない天気の話から、この辺りに出来たカフェのこと。ハンサムくんが保護猫を飼い始めたとかなんとか。そして最終、行き着くのは仕事について。

「デザイン会社さんはいつもお忙しいですよね」と、花菱が整った眉尻を垂らした。


「この間の装丁ありがとうございました。先生も凄く喜んでて」

「とんでもないです」


担当した先輩が微笑む。
ここに来る前「花菱さん“また”無茶なこと言わないよね?もう、勘弁だから…」そう、苦々しく言っていたくせに。

本人を前にしたら、人当たり良すぎないか?

まぁ、その割には“今回は締切間近に修正やめてくださいね”とでも言いたげな圧が、笑顔の奥から滲んでいるけど。


『先輩、顔に出てます』
『あ…!ごめん』

小声で注意すると、へらり、と頬を緩ませた。

『…気をつけます』
『お願いしまーす』


腕時計に視線を合わせる。ちょうど十時を回ったところで、花菱も掌におさめたスマホを眺めた。美園さんが来る気配はない。「もうそろそろかと」と、申し訳なさそうに言うので「こちらは大丈夫ですから」と、にこやかに返した。ハンサムくんは苦笑する。

「じゃ、じゃあ…先にお渡ししますね」先輩が手元の資料を並べようとしたところ、タイミングを図ったかのように、扉を叩く音がした。


「失礼します」

少し上擦る声の方へ、視線だけを寄せる。
ゆっくりドアノブが動いた。

「(ああ。やっと来た)」

そう思ったのは一瞬だけ。

淡いベージュのドット柄が散らばる白いフレアスカートと、パステルピンクのスリーブブラウスが視界に飛び込んだ。

くっきりとした二重幅の大きな瞳が、ぱちぱちと瞬きをするたびに煌めき、ポニーテールの毛先は首の後ろで踊るように揺れる。

彼女が俺を真っ直ぐ見た。

昨日まで、スーツ姿の美園結莉を想像していた自分を恨むし“真面目ちゃん”も“クソ丁寧”も撤回する。


「遅くなってすみません…っ」


今まで会った女の中で一番可愛い。
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