自惚れ、アディクト
「こんばんは。…お疲れ様、です。今日はありがとうございました」

畏まった挨拶をする私に、いとちゃんが「も〜〜!あおにいに、丁寧に接しなくていいよっ」と、ぶんぶん右手を顔の前で振る。
自分のお兄さん相手でも、いとちゃんは遠慮がなくて。強気な言動に二人姉妹で育った私は戸惑う。

「(兄妹って、こんな感じ…なんだ。ウチと全然違う…)」

ぽかん、と口を開いたまま。ふたりのやり取りを見つめてしまった。


「うるせぇ」

神崎さんの返事は素っ気ない。吐き出された白い蒸気が、魔法のように天井へ消える。

いとちゃんは更に詰め寄る。

「ね、え!結莉ちゃんに失礼なことしてないよね?言ってないよね!?」

「(どっちもされてないんだけどなぁ。……私が言ったら、いとちゃんヒートアップするよね)」


ここは、とりあえず口を挟まない方が良いと判断したの。

私が黙り込んでいると、神崎さんは一度だけ視線を向けた。黒曜の瞳に射抜かれた瞬間、息が止まる。

こころが酷く騒いだ。


「やってねぇよ」

「え、なによ。さっきの間は」

思わず、俯いてしまった。
まるで逃げてるみたいだ。……“なに”に?

「結莉ちゃんが可愛いからって、変なことしないでよね!あおにいでもダメだから」

「はーい」

店内の優しい雨音に似たBGMと、私のうるさく響いた心臓の音に紛れ、会話は聞こえなかった。

「あおにい…聞いてないでしょ……」
「さぁ、どうだろ」

「はあ…話にならない…。バカにいは無視する。ね、結莉ちゃん」


どうやら、いとちゃんが折れて、ひとまず落ち着いたらしい。
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