自惚れ、アディクト
「お兄ちゃん、もひとつ隣寄ってもらえる?結莉ちゃん、どーぞ」
「…ん」

一人分の席が空いた。いとちゃんに促され、そこに私が腰掛ける。神崎さんへ小さく頭を下げた。彼の瞳がゆらり、私を追いかける。

「どれにする?」
「甘いのがいいかなぁ。わぁ、いっぱい種類あって迷うね」

ブック型のメニュー表をぱらぱらと捲る。

「わたしはカシスオレンジを二杯飲んだよ」

ふふ、と微笑むいとちゃんの横には、グラスにたっぷり注がれたカクテルがあり、オレンジ色が照明の下で煌めく。

「ちょっとお手洗い行ってくるね。食べ物も結莉ちゃんの好きなの頼んでね」

「うん、ありがと」

いとちゃんがハンカチを手に席を外した。

丸みのあるかわいい平仮名で書かれたメニュー表を眺める。今日は飲みたい気分なので、ソフトドリンク以外を頼むことに。

「(甘い炭酸系のお酒はないのかなぁ)」

厚紙にずらりと並ぶ品書きが私を誘惑する。
目移りして、目線がいったりきたり忙しないの。

「(せっかくだし、普段飲まないものにする?カルーアミルクは“いつもの”になるから…う〜〜ん、どうしよう。ビールとワインは苦手だもんなぁ)」

優柔不断に小首を傾げて悩んでいると、肩口を、とんと叩かれた。


「決まった?」

顔を持ち上げた先に、神崎さんが頬杖をつきながら、私を見つめていた。

「……まだ、です」


上擦った声がころんと落ちる。

朝の打ち合わせのときに比べ、柔らかな表情に、ほんの少しだけ面食らってしまった。

「…………」
「…………」

プライベートで男性とふたりになったら、仕事以外のなにを話せばいいの?
恋愛経験が少ない上、相手が神崎さんだから余計に、私の心と頭はちぐはぐだ。

いとちゃん、早く戻って来て。
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