自惚れ、アディクト
「どした?」
「今日はありがとうございました。打ち合わせ……」

意を決して伝えた言葉は、ここへ来たときに交わした挨拶を繰り返しただけ。呆気なく転がって。それでいて恥ずかしい。しっぱい、しちゃった。と、胸中で項垂れた。


「ああ。無事に終わってなにより」
「ハイ…」

ピーチサワーとビールが、カウンターへ届いた。神崎さんがグラスを片手に私へ向き合う。カラン、と硬い音が重なった。

「お疲れ」

「いただきます」と、ぎこちない飲みっぷりを披露する。爽やかな炭酸が弾けて、甘い桃の果肉が口いっぱいに広がった。

「!!」

サワーにして正解だったなぁ。私好みで飲みやすい。

もう一口、飲む。ウン、美味しい。

「それと、メールもありがと。いつも丁寧に返してくれんの感心する」

不意打ちのお礼に指先が小さく跳ねる。
積み重なった氷が崩れた。

「……ぁ、エト……」

神崎さんが伝えてくれたコト…。
夕方、パソコンと睨めっこで悶々と考えて、何度も読み直した末に送信したメールであると、僅かな間を置いて理解した。

喉が灼けるようにひりつく。

「ご迷惑じゃなかったですか?」

「なんで」

「細かすぎて鬱陶しいとか、面倒くさいって言われたりするから。神崎さんも思いますよね…」

「…………」


なんで、こんなこと言っちゃったんだろう。
要らない一言だった。言わない方が良かった。
……なかったことにしたい。

自分で招いた沈黙が、重たくて、苦しくて。
どうにかして誤魔化そうとした瞬間。


「思わねぇよ。ちゃんとしてくれる人の方が、仕事しやすい。美園さんに今日会って、余計感じたけど」

神崎さんがそう言い切る。
ふ、と口角を柔らかに上げた。

「“俺は”ね」

胸がしとしとと音を奏でる。
嬉しさのあまり、ふにゃと破顔した。

「……ありがとうございます」

「(危ねぇ。ドキッてなんだよ)」
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