自惚れ、アディクト
それ以上の会話は続かなかった。けれど、不思議と気まずさはなくて。もう一歩だけ、勇気を出してみることにした。


「ずっと、聞きたかったんですけど——」

私のこと覚えていますか?

言いかけた瞬間、誰かの声が被さった。

「わた、」
「あれ?神崎くんだ〜〜」

「(ど、どなた……?)」


あまい、ローズの香りに包まれる。

ゆら、と視線を上げた先で、とても可愛い女性(ひと)が神崎さんに手を振っていた。
「久しぶり」と、女性は親しそうに話しかけて「一ヶ月ぶりだね〜」と、宝石を集めたみたいに輝く大きなアーモンドアイを細める。「マジか。元気してた?」そう、神崎さんが返すのを横目に、私は言葉を呑み込んだ。

親しげな雰囲気を纏うふたりは、恋人なのかなと思ったけれど、そうではないようだ。

「神崎くんいつ暇なの?」とか「今度飲みに行こうよ」と、否が応でも会話が耳に滑り込んでくる。

すらっとした長身に、綺麗に巻かれたふわふわな長髪。華奢な肩に掛けているのは、二十代に人気なブランドバッグ。マグネットネイルが指先で光って、身に纏うフェミニンな服も似合っている。

「またね」

つられて、私は女性に顔を向けたの。ふふ、と私に対しても会釈しながら微笑んだけれど、頭から爪先までしっかり見られたようで、なんだか居た堪れない。


「さっきの人、誰?」

女性が去った直後、いとちゃんが物凄い剣幕で神崎さんを睨んだ。

「あ〜〜…。知り合い」

神崎さんははぐらかした。
私は“それ以上の関係”であると確信している。

「(いとちゃん、嘘だよ)」

ム、と唇を小さく尖らせた。

いつだったかなぁ。
いとちゃんが「わたしのお兄ちゃん、遊び人だから困るんだよね。いろいろと」と、小言を垂れていた記憶がある。

今日、目の当たりにして、その理由がわかったような、わからないような。

確かに、神崎さんのように容姿端麗で仕事も出来て、欠点のない男性だったら、一人に絞らない恋愛を選ぶのかもしれない。

でも私は、たった一人だけを愛する方がいい。
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