四つ葉の栞
あの日と同じ声
卒業して三年。
美紗樹は高校二年生になっていた。
あの日から、図書室へ行くことは少なくなった。
それでも、本だけは変わらず好きだった。
休日の午後。
新しくできた本屋へ、ふらりと立ち寄る。
店内には、紙の匂いと静かな音楽が流れていた。
新刊コーナーを眺めていると、後ろから優しい声が聞こえる。
「何かお探しですか?」
その声に、美紗樹の心臓が大きく鳴った。
ゆっくりと振り返る。
そこにいたのは、本を並べる店員。
横顔が、あまりにも懐かしかった。
「……川﨑先輩?」
その人は驚いたように顔を上げる。
少し伸びた髪。
中学生だった頃より少し大人びた表情。
けれど、その笑顔は何も変わっていなかった。
「富田さん……?」
二人はしばらく見つめ合ったあと、同時に笑った。
「久しぶり。」
「お久しぶりです。」
それだけなのに、胸がいっぱいになる。
「まだ本、好き?」
蒼が聞く。
「はい。先輩は?」
「もちろん。」
そう言って、蒼は一冊の小説を手に取った。
「これ、おすすめ。」
その一言に、美紗樹は思わず笑う。
昔、図書室で聞いた言葉と同じだった。
「ありがとうございます。」
本を受け取り、レジへ向かう。
会話は少しだけ。
聞きたいことはたくさんある。
伝えたいことは、もっとたくさんある。
「好きでした。」
その一言だけが、どうしても口から出てこない。
会計を終えると、美紗樹は小さく頭を下げた。
「また来ます。」
蒼も笑ってうなずく。
「うん。また。」
店を出ると、春の風が頬をなでた。
美紗樹は胸に抱えた本を見つめ、小さく微笑む。
ページを開くと、一枚のしおりが挟まれていた。
四つ葉のクローバー。
裏には、見覚えのある文字で、一言だけ書かれていた。
『また、同じ本の話をしよう。』
美紗樹はその文字を指でなぞる。
涙がこぼれそうになった。
あの日も、今日も。
二人は同じ想いを抱えたまま、笑って別れた。
その恋は実らなかった。
けれど、四つ葉のしおりは、二人が確かに出会い、同じ時間を過ごした証として、静かに本の中で眠り続けるのだった。
美紗樹は高校二年生になっていた。
あの日から、図書室へ行くことは少なくなった。
それでも、本だけは変わらず好きだった。
休日の午後。
新しくできた本屋へ、ふらりと立ち寄る。
店内には、紙の匂いと静かな音楽が流れていた。
新刊コーナーを眺めていると、後ろから優しい声が聞こえる。
「何かお探しですか?」
その声に、美紗樹の心臓が大きく鳴った。
ゆっくりと振り返る。
そこにいたのは、本を並べる店員。
横顔が、あまりにも懐かしかった。
「……川﨑先輩?」
その人は驚いたように顔を上げる。
少し伸びた髪。
中学生だった頃より少し大人びた表情。
けれど、その笑顔は何も変わっていなかった。
「富田さん……?」
二人はしばらく見つめ合ったあと、同時に笑った。
「久しぶり。」
「お久しぶりです。」
それだけなのに、胸がいっぱいになる。
「まだ本、好き?」
蒼が聞く。
「はい。先輩は?」
「もちろん。」
そう言って、蒼は一冊の小説を手に取った。
「これ、おすすめ。」
その一言に、美紗樹は思わず笑う。
昔、図書室で聞いた言葉と同じだった。
「ありがとうございます。」
本を受け取り、レジへ向かう。
会話は少しだけ。
聞きたいことはたくさんある。
伝えたいことは、もっとたくさんある。
「好きでした。」
その一言だけが、どうしても口から出てこない。
会計を終えると、美紗樹は小さく頭を下げた。
「また来ます。」
蒼も笑ってうなずく。
「うん。また。」
店を出ると、春の風が頬をなでた。
美紗樹は胸に抱えた本を見つめ、小さく微笑む。
ページを開くと、一枚のしおりが挟まれていた。
四つ葉のクローバー。
裏には、見覚えのある文字で、一言だけ書かれていた。
『また、同じ本の話をしよう。』
美紗樹はその文字を指でなぞる。
涙がこぼれそうになった。
あの日も、今日も。
二人は同じ想いを抱えたまま、笑って別れた。
その恋は実らなかった。
けれど、四つ葉のしおりは、二人が確かに出会い、同じ時間を過ごした証として、静かに本の中で眠り続けるのだった。