花囲い

「そんなこと言ったっけ? 誰と? 美咲?」
「もう、井𡈽くんとよ! スーパーでまた会ってね。挨拶してくれたのよ。あの子本当にいい子だわ〜」
「そんな約束、一度もしてないけど」
「え? でも井𡈽くんがそう言って――」
「してないってば!!」

 思わず食卓を叩くと母の笑顔がひきつる。

 母でさえ、私の言うことより井𡈽くんを信じる。この状況は明らかにおかしかった。

 それなのに誰も彼を疑わない。

「そんなに怒らなくてもいいじゃない。別に恥ずかしがることないのよ。私だって若い時は……あ、そうそう」

 母はブツブツ言いながら冷蔵庫から何かを取り出して私の前に置いた。

「はい、あんたこれ好きなんでしょ」

 それは教室のゴミ箱に捨てたはずのミルクティーだった。
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