花囲い

 境内には老夫婦がいて、私は藁にもすがる思いで近寄った。

「あの」

 声が震える。

「助けてください」

 二人は驚いた顔をする。

「どうしました?」
「知らない人につけられて、」

 そこまで言って振り返る。井𡈽くんが鳥居の前で立ち止まっていた。境内へは入ってこず、こちらに手を振っている。

 老夫婦は井𡈽くんの様子を見て首を傾げた。

「あの子?」
「……はい」
「お友達じゃないの?」

 終わった。私は何も言えなくなる。井𡈽くんは困ったように頭を下げた。

「すみません」

 人を安心させる、穏やかな声だった。

「少し喧嘩してしまって」
「そうなの」

 老夫婦は安心したように笑う。

「ちゃんと仲直りしなさいよ」

 私は首を振る。

「違、違うんです」
「ほら」

 井𡈽くんは私を見ないまま言う。

「帰ろう」

 責める声ではなかった。命令でもない。恋人を気遣うような、静かな口調だった。老夫婦も頷く。

「彼氏さんも心配してるよ。」

 私は逃げて、また走った。もうどこを走っているのか分からなかった。
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