花囲い



 ――放課後。

 部活に入っていない私は、友達にバイバイしてからそのまま帰宅する。校門を出たところで、ふと後ろから近づく足音に気づいた。

「一緒に帰ろうよ」

 井𡈽くんだ。

「ごめん、用事あるから」

 私はとっさに嘘をつく。井𡈽くんは「そうなんだ」とあっさり引き下がった。

 私は少し安心して駅とは反対方向へ歩き出す。もちろん用事なんてない。

 十分ほど住宅街を歩いてから、大回りして駅へ向かう。そして改札に着いたときだった。

「あれ」

 聞き慣れた声が、耳を撫でる。

「また会ったね」

 そこには井𡈽くんが立っていた。

 私は目を丸くし、思わず足を止める。

「帰ったんじゃ?」
「少し本屋に寄ってたんだ。今日雑誌の発売日だから」

 そう言って笑う。

「同じ電車だよね? 乗ろうか」

 うちの学校の生徒はだいたい同じ方向だから、電車が同じことはおかしくはない。

 偶然だ。そう、偶然。私は自分に言い聞かせる。

 最寄り駅で電車を降りると、井𡈽くんも同じ駅で降りる。

「それじゃあね」

 私は会釈だけして、早足でその場を去る。途中で振り返るともう井𡈽くんの姿は見えなかった。私はどっと疲れ、思わず大きく息をついた。
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