花囲い
♢
――放課後。
部活に入っていない私は、友達にバイバイしてからそのまま帰宅する。校門を出たところで、ふと後ろから近づく足音に気づいた。
「一緒に帰ろうよ」
井𡈽くんだ。
「ごめん、用事あるから」
私はとっさに嘘をつく。井𡈽くんは「そうなんだ」とあっさり引き下がった。
私は少し安心して駅とは反対方向へ歩き出す。もちろん用事なんてない。
十分ほど住宅街を歩いてから、大回りして駅へ向かう。そして改札に着いたときだった。
「あれ」
聞き慣れた声が、耳を撫でる。
「また会ったね」
そこには井𡈽くんが立っていた。
私は目を丸くし、思わず足を止める。
「帰ったんじゃ?」
「少し本屋に寄ってたんだ。今日雑誌の発売日だから」
そう言って笑う。
「同じ電車だよね? 乗ろうか」
うちの学校の生徒はだいたい同じ方向だから、電車が同じことはおかしくはない。
偶然だ。そう、偶然。私は自分に言い聞かせる。
最寄り駅で電車を降りると、井𡈽くんも同じ駅で降りる。
「それじゃあね」
私は会釈だけして、早足でその場を去る。途中で振り返るともう井𡈽くんの姿は見えなかった。私はどっと疲れ、思わず大きく息をついた。