花囲い
第2話 酸欠
――次の日、知らない番号からのメッセージは来なかった。それだけで安心してしまう自分がいる。
勘違いだったのかもしれない。たまたま遠回りを見られていただけかもしれないし、ただの悪戯だったのかもしれない。
そう思うことにした。そうでもしないと、学校へ行けなくなるから。
朝のホームルームが始まる前の教室はいつも騒がしい。誰かが宿題を写し、誰かがお菓子を配り、誰かがSNSの話をしている。
そんな中、私は窓際の席で文庫本を開いていた。
「また読んでる」
顔を上げると、井𡈽くんが微笑んでいる。
「うん」
「何読んでるの?」
今読んでいる好きな作家の短編集を見せると、井𡈽くんはにこりと笑って言う。
「ああ、その作家。僕も読むよ」
そして「次の新刊も楽しみだよね」と続ける。私は、その作家の新刊が来月発売だったことを思い出した。
誰にも話していない。予約を済ませてあることも。発売日を手帳に書き込んだことも。
「井𡈽くんって結構本読むんだ?」
「そうだね。人並みには」
はたから見たらなんでもないやりとりのはずなのに、私の手は震えていた。
恐怖で色付けされた疑念。その小さな棘が刺さったまま抜けずに、ずっと心に留まっている。
勘違いだったのかもしれない。たまたま遠回りを見られていただけかもしれないし、ただの悪戯だったのかもしれない。
そう思うことにした。そうでもしないと、学校へ行けなくなるから。
朝のホームルームが始まる前の教室はいつも騒がしい。誰かが宿題を写し、誰かがお菓子を配り、誰かがSNSの話をしている。
そんな中、私は窓際の席で文庫本を開いていた。
「また読んでる」
顔を上げると、井𡈽くんが微笑んでいる。
「うん」
「何読んでるの?」
今読んでいる好きな作家の短編集を見せると、井𡈽くんはにこりと笑って言う。
「ああ、その作家。僕も読むよ」
そして「次の新刊も楽しみだよね」と続ける。私は、その作家の新刊が来月発売だったことを思い出した。
誰にも話していない。予約を済ませてあることも。発売日を手帳に書き込んだことも。
「井𡈽くんって結構本読むんだ?」
「そうだね。人並みには」
はたから見たらなんでもないやりとりのはずなのに、私の手は震えていた。
恐怖で色付けされた疑念。その小さな棘が刺さったまま抜けずに、ずっと心に留まっている。