転生したらひとりぼっちだった私、最強国の冷徹大公に拾われる~不愛想な最強保護者のもとで、稀代の才能が花開きました~
事前に『竜大公』が来ると知っていなければ、強襲かと思い広場はもっと騒然としただろう。
黒竜は王宮広場の上を何回か旋回したあと、垂直に地面に降りてきた。風が巻き起こり、女性はドレスの裾と髪の毛を必死に押さえ、男性は風圧に頭を抱えて目を閉じる。整然と並んでいたカトラリー類は零れ落ち、ナプキンも宙を舞う。
私も飛ばされないように柱にしがみつきながら、舞い降りてきた竜を凝視した。すると、竜の背からひらりと人が飛び降りる。黒衣のマントを羽織った銀色の髪の男性は、悠然と広場の真ん中に立つと、ぐるりと辺りを見回した。
圧倒的な存在感に、その場の全員が息を呑む。
男性が降り立って数十秒経ったが、私を含め、誰も言葉を発することができなかった。
あの方が……竜大公? 私は柱から恐る恐る半身を乗り出して、じっくりと彼を観察した。
歳は四十手前くらい。姿勢がよく背も高く、なにもかもが常人より大きい。顔立ちは整っていて美しいが、その表情からは感情が読み取れない。そして残念なことに、特徴的な三白眼が人相を悪く見せてしまっていた。
小さな子どもがいたら、泣き出してしまうレベルで怖い。来客の中にも、恐怖のあまり足が竦んで動けない人もいるようだ。
なにかを探していたような竜大公の視線が、ある箇所で留まる。その視線の先には国王カインがいた。
竜大公はゆっくりと一歩踏み出し、玉座に向かって歩き出す。私も彼の姿を追いながら、人々の背後をこそこそと動き回り、玉座がよく見える場所に移動した。せっかく世界の最高権力者、竜大公が来たのだ。今見ておかないともう一生見られないかもしれない、と思って。
前方の玉座では、竜の登場に驚いたアルマがカインの腕の中で震えていた。カインも一歩一歩近づいてくる竜大公の威厳に圧を感じたのか、体全体から怯えが見て取れる。カインとアルマが情けない姿を晒すのに対し、王妃は王子とともに玉座から立ち上がり、竜大公に向かって堂々と頭を下げた。
国王と王妃はあまり仲がよくないという噂はあったが、こう見るとそれも本当のことのような気がした。
やがて、竜大公がカインの前に立つ。すると、勇気を振り絞ったカインが恐々と言葉を発した。
「よ、ようこそ。竜大公シリウス・ドラン様、でしょうか?」
「……そうでなければ、誰だというのだ?」
ぷっ、と思わず吹き出してしまった。竜の背に乗って広場に降り立ち、他国の国王や使者に頭を下げなくてもいい人物が他にいる? 考えなくてもわかるでしょう?
と、呆れながらも、私は竜大公の声に聞き惚れていた。決して大声ではないのにとても聞き取りやすく、迷いが一切ない。声質はバリトンボイスを更に低くした重低音だ。
「し、失礼を。私はパルティナ国王、カインでございます。このたびはお越しいただきありがとうございます。これは、プリマヴェーラである娘のアルマです。さあ、竜大公にご挨拶を」
「……は、はい。パ、パルティナ国、お、王女、アルマと申します。こ、このたびは……このたびは……」
ドレスの裾を掴み、蒼い顔で怯えて震えるアルマ。彼女は恐怖のあまり口上も忘れてしまったようだ。そんなアルマの様子を淡々と見つめ、竜大公はすっと右手を上げる。すると、広場中央に控えていた黒竜が大きく口を開いた。
竜が咆哮をあげる!?
広場に集まった人々は、轟音に備えて耳を押さえて蹲る。私も慌てて耳を塞ぐが、予想していたような轟音は聞こえなかった。周りの人たちが顔を顰めて耳を押さえているのを見ると、竜は咆哮をあげたのだと思う。でも、その咆哮が私には人語に聞こえたのだ。
『王女アルマ。君は何歳だ?』
黒竜は大きな声でそう言っていたのだ。
あれ? 竜語を翻訳するスキルでも目覚めたのかな? ……そんなバカな。
あり得ない現象を否定していると、玉座では竜大公が冷ややかなオーラを増していた。黒竜の咆哮(言葉?)を聞いたあと、彼はしばらくアルマを見つめていた。意図するところはわからないけれど、私には竜大公が答えを待っているように感じた。
黒竜は王宮広場の上を何回か旋回したあと、垂直に地面に降りてきた。風が巻き起こり、女性はドレスの裾と髪の毛を必死に押さえ、男性は風圧に頭を抱えて目を閉じる。整然と並んでいたカトラリー類は零れ落ち、ナプキンも宙を舞う。
私も飛ばされないように柱にしがみつきながら、舞い降りてきた竜を凝視した。すると、竜の背からひらりと人が飛び降りる。黒衣のマントを羽織った銀色の髪の男性は、悠然と広場の真ん中に立つと、ぐるりと辺りを見回した。
圧倒的な存在感に、その場の全員が息を呑む。
男性が降り立って数十秒経ったが、私を含め、誰も言葉を発することができなかった。
あの方が……竜大公? 私は柱から恐る恐る半身を乗り出して、じっくりと彼を観察した。
歳は四十手前くらい。姿勢がよく背も高く、なにもかもが常人より大きい。顔立ちは整っていて美しいが、その表情からは感情が読み取れない。そして残念なことに、特徴的な三白眼が人相を悪く見せてしまっていた。
小さな子どもがいたら、泣き出してしまうレベルで怖い。来客の中にも、恐怖のあまり足が竦んで動けない人もいるようだ。
なにかを探していたような竜大公の視線が、ある箇所で留まる。その視線の先には国王カインがいた。
竜大公はゆっくりと一歩踏み出し、玉座に向かって歩き出す。私も彼の姿を追いながら、人々の背後をこそこそと動き回り、玉座がよく見える場所に移動した。せっかく世界の最高権力者、竜大公が来たのだ。今見ておかないともう一生見られないかもしれない、と思って。
前方の玉座では、竜の登場に驚いたアルマがカインの腕の中で震えていた。カインも一歩一歩近づいてくる竜大公の威厳に圧を感じたのか、体全体から怯えが見て取れる。カインとアルマが情けない姿を晒すのに対し、王妃は王子とともに玉座から立ち上がり、竜大公に向かって堂々と頭を下げた。
国王と王妃はあまり仲がよくないという噂はあったが、こう見るとそれも本当のことのような気がした。
やがて、竜大公がカインの前に立つ。すると、勇気を振り絞ったカインが恐々と言葉を発した。
「よ、ようこそ。竜大公シリウス・ドラン様、でしょうか?」
「……そうでなければ、誰だというのだ?」
ぷっ、と思わず吹き出してしまった。竜の背に乗って広場に降り立ち、他国の国王や使者に頭を下げなくてもいい人物が他にいる? 考えなくてもわかるでしょう?
と、呆れながらも、私は竜大公の声に聞き惚れていた。決して大声ではないのにとても聞き取りやすく、迷いが一切ない。声質はバリトンボイスを更に低くした重低音だ。
「し、失礼を。私はパルティナ国王、カインでございます。このたびはお越しいただきありがとうございます。これは、プリマヴェーラである娘のアルマです。さあ、竜大公にご挨拶を」
「……は、はい。パ、パルティナ国、お、王女、アルマと申します。こ、このたびは……このたびは……」
ドレスの裾を掴み、蒼い顔で怯えて震えるアルマ。彼女は恐怖のあまり口上も忘れてしまったようだ。そんなアルマの様子を淡々と見つめ、竜大公はすっと右手を上げる。すると、広場中央に控えていた黒竜が大きく口を開いた。
竜が咆哮をあげる!?
広場に集まった人々は、轟音に備えて耳を押さえて蹲る。私も慌てて耳を塞ぐが、予想していたような轟音は聞こえなかった。周りの人たちが顔を顰めて耳を押さえているのを見ると、竜は咆哮をあげたのだと思う。でも、その咆哮が私には人語に聞こえたのだ。
『王女アルマ。君は何歳だ?』
黒竜は大きな声でそう言っていたのだ。
あれ? 竜語を翻訳するスキルでも目覚めたのかな? ……そんなバカな。
あり得ない現象を否定していると、玉座では竜大公が冷ややかなオーラを増していた。黒竜の咆哮(言葉?)を聞いたあと、彼はしばらくアルマを見つめていた。意図するところはわからないけれど、私には竜大公が答えを待っているように感じた。