転生したらひとりぼっちだった私、最強国の冷徹大公に拾われる~不愛想な最強保護者のもとで、稀代の才能が花開きました~
 そうこうするうちに、生育場に着いた。生育場は静かで少しひんやりしている。ふかふかの藁の上に置かれた卵は、誕生の時を待つように穏やかに眠っているようだった。シオンは隣の部屋で雛竜たちを遊ばせると、私と一緒に生育場を歩いた。
「ここの藁を変えるのもお側人の仕事なんですね」
『ええ。でも、それは生まれてからでいいの。だって、卵の時は汚れないでしょ?』
「確かに。どのくらいで生まれるのですか?」
『個体差があるけれど、だいたい五十日くらいかしらね。それじゃあ、次は雛竜と小竜たちの食事場に行きましょう。今は小竜たちが食事をしているわ』
 私は頷いてシオンのあとに続いた。雛竜と小竜たちの食事場は、昨日行った場所とは違い、生育場のすぐ裏手にあった。
 そこでは、雛竜より二回りほど大きな小竜たちが肉や果物を食べている。テトラによると、竜の食事は彼ら自身で調達するという。戦闘に特化した種族なだけあって狩猟も大得意だ。
 この広いドラウグル山には、竜の他に魔物と呼ばれる生物が生息している。大きな魔鷲ローグや、牛に似ている頑強な魔獣ガルだ。
 竜族はその魔物の肉を主食にしている。本来なら、人間を襲うであろう魔物は、竜族が恐ろしくて麓に降りることもできないのだとか。
 竜と人間との共生関係は、こんな風に長年続いてきたのだ。
 私は小竜たちに近づいて、食事の様子を眺めてみた。すると、あることに気づく。
 果物を美味しそうに食べている彼らが、肉には手をつけていない。肉は生で赤々としており、血が滴っていて、少し臭みもあるようだ。竜族は雑食といえども主食は肉。好物のはずなのに、どうして残しているのかな?
「シオンさん、肉の人気がないようですけど」
『そうなの。魔獣ガルの肉は繊維が多くて食べにくいから、小竜は嫌うのよね。でも、小さいうちから栄養を取らないと、体が大きくならないし……正直、どうしたらいいか困っていてね』
「そうなんですか……」
『うちの子も、ね。肉が合わないらしくて、すぐにお腹を壊しちゃうの……最近は、ずっと体調も悪くて、今日も臥せっているわ』
 シオンは、ゆるゆると首を振り、瞳を伏せた。主食である肉に人気がないのは困ったことだわ。でも、食べにくいものを食べるのは小竜たちにとっても苦痛でしかない。それに、シオンの子どものことも気になる。
 竜のお側人として、なんとかできたらいいのだけれど……。そうだわ、まず、魔物の肉がどれほど固いのか、そして、シオンの子どもの病気がどんなものなのかを知ろう。対策はそれからだ。
 私は、その旨をシオンに告げた。すると彼女は頷いて、魔物の肉の置き場所に連れていってくれた。
 肉はひんやりとした冷凍庫のような場所に置かれていた。フロストドラゴンは万物を凍らせる氷の息を吐く。その特性を利用して、水を凍らせ氷を作り、その氷を利用して冷凍庫のような場所を作り出しているらしい。狩ってきた肉は、適当に捌いてから、余った分を保管しているということだ。
 寒くて腕を摩りながら肉を見ると、太い筋があり油分も少なそうだった。生のままでも固く、焼いても固そう。人間ならまず食べられないだろうけど、竜族の鋭い牙ならなんとかいけそうだ。
 ただ、雛竜と小竜の小さな牙では、少し難しいのかもしれない。
 それから案内されたのは竜族族長の住まいだ。竜族の中でも、族長だけは住まいが違い、集落が見渡せる高台にあるという。シオンの子どもは、そこで臥せっているのだ。
 シオンに続いて住まいである大きな洞穴に入ると、そこに小竜が横になっていた。蒼緑の(うろこ)が美しい小竜だったけれど、弱々しくお腹を抱えて唸っている。
『オリオン? まだ痛むの?』
 シオンが声をかけた。
『うん……』
『そう、なにが悪かったのかしら……肉は食べていないのにね』
『僕……もう、なにも食べたくないよ』
 オリオンは力なく答える。栄養不良と腹痛が重なって元気も出ないらしい。
『ダメよ。食べないと死んじゃうわ』
『……死んでもいい』
「そんなこと言ったらダメっ!」
 私は大声で叫んだ。前世の影響からか『死』という言葉に嫌悪感があったのだ。突然の叫びに、シオンとオリオンがこちらに視線を向ける。あ……ちょっと過剰に反応しすぎたかも……と思い、コホンと咳をすると、今度は冷静に声をかけた。
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