転生したらひとりぼっちだった私、最強国の冷徹大公に拾われる~不愛想な最強保護者のもとで、稀代の才能が花開きました~
じんわりと胸に込み上げるものを押し留めつつ、私はテトラに語った。
「肉を柔らかくしようと思っています! テトラさん、よく切れる包丁と卸し金、あとお塩と卵が欲しいのですけど、なんとかなりますか?」
「ああ、包丁はここにあるよ。卸し金と塩と卵は城の厨房にあるはずだ……うん、よし! わしが借りてきてやろう」
「え、そんな、言い出したのは私ですから、私が……」
「いいっていいって。竜たちのためになることなら、早いに越したことはない。ネリーはまだこの山道に慣れていないだろう? 何十年も通ったわしのほうが早いに決まっている。だから、任せておけ」
そう言って豪快に笑う先達は、胸をドンと叩いて小屋を出ていった。あまりの素早さにお礼も言えなかった。私は心の中で「ありがとう」と呟きながら、小屋に設置された狭い炊事場に食材を置いた。炊事場には、簡単に調理ができるような竈もあり、すでにテトラが火をくべている。私は近くの戸棚に目を向け、そこにある包丁を取り出した。
まず、ぶあつい塊のままの肉を、適度な厚さにスライスし、筋を垂直に切っていく。筋を切ることで、肉をある程度食べやすくするのは現代では常識である。しかしながら、この世界ではまだ、そういった手法は一般的ではない。パルティナ国の厨房で見たのは、何度も叩いて、焼いた時の縮みを軽減することだけだった。筋を切ればもっと柔らかくなるのになあ、と思いながら見ていたが、話を聞いてもらえないのでずっと黙っていたのだった。
どうせ、王族が食べるのだし、ねえ、と。
見たところ魔獣ガルの肉には強靭な筋がある。これを生で食べるのは、顎と牙が育ち切っていない雛・小竜たちには骨が折れるだろう。スライスする時も筋に包丁を入れる時も、かなり力が必要だった。
肉の筋を粗方切り終えると、次はその筋を目掛けて棍棒で叩く作業。筋を切る、叩くの二段構えで柔らかくするという算段である。下準備が終わる頃、テトラが戻ってきた。
「ネリー、帰ったぜ」
「あ。お帰りなさい。テトラさん、あれ?」
微笑む彼の後ろには、タリアが荷物を抱えて立っている。私の驚いた顔を見てテトラが言った。
「ああ、驚いたか? 厨房に行く途中でタリアに会ったんだ。ネリーの話を伝えたら、任せろ、っていうもんだから、そのまま頼っちまった」
「まあ、ありがとうございます。タリアさん」
「ふふ。いいのよ。そんなことより、卸し金、何個か選んで持ってきたわ。好きなのを使ってね。包丁も切れ味のいいやつを持ってきたの。塩も卵もあるわよ」
タリアは満面の笑みで、袋の中身を机に出した。数種類の卸し金と包丁が三本。どれも、新品のように新しく高級品のように見えた。パルティナ国の厨房にあったものとは雲泥の差だ。高級調味料の塩も、袋入りのものをそのまま持ってきているようだ。
「ええ!? そんなに持ってきて厨房は大丈夫ですか? 仕事にならなくて困るんじゃ……」
「全然困らないわ。厨房にはたくさん調理器具があるし、調味料だって世界各国のものがいつでも手に入る。この程度持ってきたところでなんの問題もないわ」
「ふぇー……ドラン公国ってすごいんですねえ……」
「おいネリー、バカみたいに口開けてないで、仕事を進めようぜ」
バカみたいって酷い!と憤ったが、確かにテトラの言うとおり。私は気を引き締めて塩を手に取ると、筋切りをしたガルの肉に少量振って軽く揉み込んだ。しばらくしたら臭みを含んだ水気が出るので、拭き取ったら肉の下準備は終了だ。
それから私が手に取ったのは、リンゴである。もちろん食事場にあったものだ。摺り下ろして肉を漬け込むと、一時間くらいで柔らかくなる……はずだけど、魔獣の肉にその方法が通じるのかという不安もある。元々が固かったから、長時間漬け込んだほうがいいかも。本当はキウイやパイナップルのほうが効果は絶大なのだけれど、その場になかったのだから仕方ないわね。
「肉を柔らかくしようと思っています! テトラさん、よく切れる包丁と卸し金、あとお塩と卵が欲しいのですけど、なんとかなりますか?」
「ああ、包丁はここにあるよ。卸し金と塩と卵は城の厨房にあるはずだ……うん、よし! わしが借りてきてやろう」
「え、そんな、言い出したのは私ですから、私が……」
「いいっていいって。竜たちのためになることなら、早いに越したことはない。ネリーはまだこの山道に慣れていないだろう? 何十年も通ったわしのほうが早いに決まっている。だから、任せておけ」
そう言って豪快に笑う先達は、胸をドンと叩いて小屋を出ていった。あまりの素早さにお礼も言えなかった。私は心の中で「ありがとう」と呟きながら、小屋に設置された狭い炊事場に食材を置いた。炊事場には、簡単に調理ができるような竈もあり、すでにテトラが火をくべている。私は近くの戸棚に目を向け、そこにある包丁を取り出した。
まず、ぶあつい塊のままの肉を、適度な厚さにスライスし、筋を垂直に切っていく。筋を切ることで、肉をある程度食べやすくするのは現代では常識である。しかしながら、この世界ではまだ、そういった手法は一般的ではない。パルティナ国の厨房で見たのは、何度も叩いて、焼いた時の縮みを軽減することだけだった。筋を切ればもっと柔らかくなるのになあ、と思いながら見ていたが、話を聞いてもらえないのでずっと黙っていたのだった。
どうせ、王族が食べるのだし、ねえ、と。
見たところ魔獣ガルの肉には強靭な筋がある。これを生で食べるのは、顎と牙が育ち切っていない雛・小竜たちには骨が折れるだろう。スライスする時も筋に包丁を入れる時も、かなり力が必要だった。
肉の筋を粗方切り終えると、次はその筋を目掛けて棍棒で叩く作業。筋を切る、叩くの二段構えで柔らかくするという算段である。下準備が終わる頃、テトラが戻ってきた。
「ネリー、帰ったぜ」
「あ。お帰りなさい。テトラさん、あれ?」
微笑む彼の後ろには、タリアが荷物を抱えて立っている。私の驚いた顔を見てテトラが言った。
「ああ、驚いたか? 厨房に行く途中でタリアに会ったんだ。ネリーの話を伝えたら、任せろ、っていうもんだから、そのまま頼っちまった」
「まあ、ありがとうございます。タリアさん」
「ふふ。いいのよ。そんなことより、卸し金、何個か選んで持ってきたわ。好きなのを使ってね。包丁も切れ味のいいやつを持ってきたの。塩も卵もあるわよ」
タリアは満面の笑みで、袋の中身を机に出した。数種類の卸し金と包丁が三本。どれも、新品のように新しく高級品のように見えた。パルティナ国の厨房にあったものとは雲泥の差だ。高級調味料の塩も、袋入りのものをそのまま持ってきているようだ。
「ええ!? そんなに持ってきて厨房は大丈夫ですか? 仕事にならなくて困るんじゃ……」
「全然困らないわ。厨房にはたくさん調理器具があるし、調味料だって世界各国のものがいつでも手に入る。この程度持ってきたところでなんの問題もないわ」
「ふぇー……ドラン公国ってすごいんですねえ……」
「おいネリー、バカみたいに口開けてないで、仕事を進めようぜ」
バカみたいって酷い!と憤ったが、確かにテトラの言うとおり。私は気を引き締めて塩を手に取ると、筋切りをしたガルの肉に少量振って軽く揉み込んだ。しばらくしたら臭みを含んだ水気が出るので、拭き取ったら肉の下準備は終了だ。
それから私が手に取ったのは、リンゴである。もちろん食事場にあったものだ。摺り下ろして肉を漬け込むと、一時間くらいで柔らかくなる……はずだけど、魔獣の肉にその方法が通じるのかという不安もある。元々が固かったから、長時間漬け込んだほうがいいかも。本当はキウイやパイナップルのほうが効果は絶大なのだけれど、その場になかったのだから仕方ないわね。