転生したらひとりぼっちだった私、最強国の冷徹大公に拾われる~不愛想な最強保護者のもとで、稀代の才能が花開きました~
 アルマの言いがかりに反論しないのは、火に油を注ぎたくないから。
 相手はこちらが反抗するのを待っていて、もっと私をみじめにさせたいのだ。最初はそれに乗ってしまい散々な結果になったが、数年にわたり辛酸をなめると嫌でも学習するものだ。
 カインとアルマが朝食を終えて去り、食堂にひとり残った私は、片付けに取り掛かる。
 本来なら、これは王宮の侍女の仕事なのだが、当然のごとく彼女たちは手伝わない。私が辛い思いをすればするほど、カインとアルマが喜び自分たちへの待遇がよくなるからだ。
 何回かに分けて食器を運び、洗い終える頃には昼食の準備が始まる。そして、昼食時にも夕食時にも食堂では同じような嫌がらせが起き、心身ともに疲れて帰宅するのが日常になっていた。
 でも、そんな理不尽な日常の中にも、楽しみがある。捨てられてしまう野菜の端材とか、果物の皮や鳥の骨などをもらい、ささやかながら栄養のある食事を作ること、である。
 鳥の骨で出汁をとった野菜スープは絶品だし、出汁をとったあとの骨は乾燥させて粉砕すると肥料になる。自宅にある畳一畳分の狭い家庭菜園でその肥料を撒いておいたら、植えた記憶のない野菜が実って驚いたこともあった。
 肥料のおかげか、高飛車なプリマヴェーラ様の権能か。とにかく私の食生活はそこそこ潤っているのである。
 病とともに生きた十八年、本と情報に縋って得た知識が、ここで花開くなんて誰が想像しただろう。食に関する知識は、その他の雑学知識より多い。それは、当時好きなものを食べられなかった悔しさのせいだった。
「アッシュさん、ここに置いてあるもの、持って帰りますね」
 帰り支度を始めた私は、帳簿をつけながら眉間に(しわ)を寄せるアッシュに言った。
 彼はいつも、私が持ち帰る残り物を籠に(まと)めておいてくれる。他人の目には残飯のようだが、私にとっては宝の山だ。
「うん。あ、そうだ、ネリー。来週のアルマ様の誕生祭、厨房の用事が終わったら王宮広場の手伝いに行ってくれ。広場で開催される食事会の設営に人手が足りないらしい」
「はい。わかりました」
「すまんな、いつも……」
 アッシュはやるせなさそうに目を伏せた。カインやアルマによる私への『特別待遇』に、アッシュが気づかないはずはない。食堂から戻った私の左頬が不自然に赤くなっていたことも、膝を擦りむいていることも全て知っている。
 貧しい平民の子どもを執拗に虐げる王族に疑問を持ちながらも、なにもしてあげられない。そんな気持ちからの謝罪なのだろう。
「いいえ。ありがとう、アッシュさん。お先に失礼します」
「気をつけてな」
 アッシュに頷いて見せると、私は帰路に就く。いじめも嫌がらせも前途多難だが、なにはともあれ生きている。
 走って、歩いて、働いて。作って、食べて、眠って、起きて。毎日を生きている。
 それだけで、幸せを感じずにはいられない。
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