転生したらひとりぼっちだった私、最強国の冷徹大公に拾われる~不愛想な最強保護者のもとで、稀代の才能が花開きました~
 一週間が過ぎ、王女アルマの誕生祭当日。
 私や厨房の使用人は、大忙しで手を動かしている。普段朝早くから始める仕込みは、前日の昼からもう始まっていた。
 私は野菜の皮を剥いて剥いて剥きまくり、切って切って切りまくる。増援として来てくれた町の人々がいても、一時も休む暇がない。今回の誕生祭は、プリマヴェーラであるアルマを世界に知らしめるための祭りで、招かれている来賓が非常に多い。
 世にも珍しいプリマヴェーラを間近で見たいと思う人が多いのだろう。それに加えて竜大公の訪問である。食事の量が一般の宴会の比じゃないのは当然だ。
 結局、一息吐いたのは来賓が集う少し前だった。だが、本当に休めたのは一瞬で、直ちに広場の準備に駆り出されてしまった。
 王宮広場は王女の誕生祭らしい可愛い飾り付けがなされていた。アーチにはピンク色の(つる)バラが咲き誇り、かぐわしい香りを漂わせている。女の子なら誰もが憧れる夢のような場所。例に漏れず私もうっとりと眺めてしまった。
「ちょっと! ぼんやりしている暇はないわよ!」
 突然後ろから押され、前屈みに倒れそうになった。すんでのところで踏ん張り振り返ると、アルマ付きの侍女頭がいた。彼女はアルマが生まれた時から面倒を見ていた最古参で、カインに一番信用されている者だ。食堂で率先して嫌がらせをしてくるのもこの侍女頭である。
「す、すみません」
「ふん! 全く鈍くさいったらないわね! まあいいわ。アルマ様がお呼びよ、ついていらっしゃい」
「……はい」
 私は仕方なく従った。自分にとっての晴れの日にまで、私に対するいじめを忘れないなんて、律儀すぎて頭が下がる。本当に、いい迷惑だ。
 侍女頭について部屋に行くと、美しく着飾ったアルマがいた。彼女は薄桃色のふんわりとしたドレスを着て髪を結い上げ、胸には眩い輝きの金色の石が揺れている。
 これが噂に聞く『ドラゴンアイ』。ドラン公国ドラウグル山で採れるとても希少な鉱石で値段も法外だという。大きさと透明度で等級が決まり、それに応じて値段が変わると、厨房でアッシュたちが話していたのを聞いたことがある。アルマは、殊の外その宝石を大切にしていて、大事な式典や行事にだけ『ドラゴンアイ』をつけていた。
 だから、一般の人がそれを見る機会はほどんどなかった。
 私は初めてドラゴンアイを間近で見て、あまりの見事さに息が止まるかと思った。見た目も豪華で素敵だけれど、それよりも心に訴えかけるなにかがあった。この鉱石ひとつに、熱く切ない願いが込められているような、そんな気がしたのだ。
「ふふ。羨ましい?」
 アルマがドラゴンアイを摘まみ、得意げに言った。なるほど、彼女は宝石を見せびらかして、私の劣等感を煽りたいようだ。
 でも、そんな手にはのらない。
「いいえ。とんでもないです」
「素直じゃないのね。本当は羨ましくて仕方ないくせに。でも、自分が卑しい生まれだと自覚しているのはいいことよ。結局、高貴な生まれの私と、薄汚い平民のお前なんて比べることもできないのだし?」
 え? わざわざ比べているのはそちらですが?
 と、心の中で華麗にツッコミながら、沈黙で答えを返す。
「…………」
「なに? なにか不満でもあるの?」
 私が黙ってしまったのを見て、アルマが憤慨する。不満があって黙ったわけじゃない。
 ただ、言葉を返すのがバカらしくなっただけ。どう答えても文句を言う人に、なにを返せばいいのだろう。
 しかし、とりあえず謝らないと、この部屋から出させてはもらえないようだ。
「不快にさせてしまいましたなら、謝罪します」
「不快よ! 不快に決まっているわ! 罰として、平手打ちよ。プリマヴェーラの私を侮辱した罪でね。さあ、おやりなさい」
「はいっ。アルマ様!」
 部屋にいたふたりの侍女が大きく返事をした。若い侍女が私の背後で両腕を押さえ、侍女頭が前面に立つ。アルマの理不尽な罰を実行するのはいつもこの侍女たちで、とても忠実に任務をこなす。平手打ちも一切の手加減なし。渾身の力を込めるので、しっかり防御を整えていないと口の中をケガしてしまうのだ。
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