音のない世界
あの日から、私は学校へ行かなかった。
行けなかった。
龍に手首を掴まれた瞬間。
松永に掴まれた時のことを思い出した。
体が勝手に震えた。
学校へ行けば、また会う。
そう思うだけで足が動かなかった。
だから私は学校を休んだ。
朝四時。
新聞配達へ向かう。
高校生になってからは、働ける時間が増えた。
学校へ行くはずだった時間も仕事を入れる。
コンビニ。
スーパー。
皿洗い。
一日中働く。
働いている間だけは、何も考えなくて済んだ。
夜。
玄関のドアが開く音。
酒の臭い。
タバコの臭い。
松永が帰ってきた。
「学校は?」
私は答えない。
答えても意味がない。
次の瞬間。
腹に強い衝撃が走る。
息ができない。
床に倒れた私の髪を掴み、無理やり立たされる。
何発殴られたか分からない。
頬。
腹。
背中。
足。
痛みに慣れたと思っていた。
でも痛いものは痛い。
「金は。」
私は震える手で封筒を差し出す。
新聞配達。
コンビニ。
皿洗い。
全部合わせた給料。
松永は中身を数える。
「少ねぇ。」
また拳が飛んできた。
私は声を出さない。
泣かない。
泣いたら長くなるから。
台所。
時計は夜十一時を回っていた。
炊飯器を開ける。
空っぽだった。
食べようと思っていた一杯のご飯もない。
松永が全部食べた。
お腹が鳴る。
昨日から何も食べていない。
いや、一昨日もほとんど食べていない。
でも何も感じない。
お腹が空くことにも慣れてしまった。
コップに水を入れる。
ゆっくり飲む。
それだけで終わり。
床に横になる。
体中が痛い。
目を閉じても眠れない。
あの人の顔が浮かぶ。
『その痣、どうした。』
あの声だけが、何度も頭の中で繰り返される。
どうして聞いたんだろう。
どうして心配そうな顔をしたんだろう。
分からない。
男は怖い。
それだけは変わらない。
私は布団の中で耳栓を握りしめた。
明日も学校には行かない。
行けない。
またあの人に会ってしまうから。
そう思いながら、小さく体を丸めた。
行けなかった。
龍に手首を掴まれた瞬間。
松永に掴まれた時のことを思い出した。
体が勝手に震えた。
学校へ行けば、また会う。
そう思うだけで足が動かなかった。
だから私は学校を休んだ。
朝四時。
新聞配達へ向かう。
高校生になってからは、働ける時間が増えた。
学校へ行くはずだった時間も仕事を入れる。
コンビニ。
スーパー。
皿洗い。
一日中働く。
働いている間だけは、何も考えなくて済んだ。
夜。
玄関のドアが開く音。
酒の臭い。
タバコの臭い。
松永が帰ってきた。
「学校は?」
私は答えない。
答えても意味がない。
次の瞬間。
腹に強い衝撃が走る。
息ができない。
床に倒れた私の髪を掴み、無理やり立たされる。
何発殴られたか分からない。
頬。
腹。
背中。
足。
痛みに慣れたと思っていた。
でも痛いものは痛い。
「金は。」
私は震える手で封筒を差し出す。
新聞配達。
コンビニ。
皿洗い。
全部合わせた給料。
松永は中身を数える。
「少ねぇ。」
また拳が飛んできた。
私は声を出さない。
泣かない。
泣いたら長くなるから。
台所。
時計は夜十一時を回っていた。
炊飯器を開ける。
空っぽだった。
食べようと思っていた一杯のご飯もない。
松永が全部食べた。
お腹が鳴る。
昨日から何も食べていない。
いや、一昨日もほとんど食べていない。
でも何も感じない。
お腹が空くことにも慣れてしまった。
コップに水を入れる。
ゆっくり飲む。
それだけで終わり。
床に横になる。
体中が痛い。
目を閉じても眠れない。
あの人の顔が浮かぶ。
『その痣、どうした。』
あの声だけが、何度も頭の中で繰り返される。
どうして聞いたんだろう。
どうして心配そうな顔をしたんだろう。
分からない。
男は怖い。
それだけは変わらない。
私は布団の中で耳栓を握りしめた。
明日も学校には行かない。
行けない。
またあの人に会ってしまうから。
そう思いながら、小さく体を丸めた。