音のない世界
龍〜

高校に入学して三日目。

相変わらず優花は一人だった。

誰とも話さない。

授業が始まれば机に伏せる。

休み時間になっても席を立たない。

まるで周りなんて存在しないみたいだった。

「龍。」

壱成が俺の肩を軽く叩く。

「また見とる。」

「……。」

否定はしなかった。

自然と目で追ってしまう。

その時だった。

担任が優花の席へ向かった。

何か話しかけている。

優花は反応しない。

もう一度。

担任の口が動く。

それでも反応しない。

「寝とるんちゃう?」

陽介が笑う。

違う。

寝ているようには見えない。

担任が少し困った顔をして、優花の肩を軽く叩いた。

ビクッ。

優花の肩が大きく跳ねる。

勢いよく顔を上げる。

その表情は一瞬だけ怯えていた。

そして周りを見渡す。

担任が何か言っている。

優花は小さく耳に手を当てた。

白いものが見えた。

……耳栓?

優花は耳から小さな耳栓を外した。

「……え?」

教室が静かになる。

担任は何事もなかったように話し始める。

優花は短く頷くと、また耳栓を耳へ戻した。

「おいおい。」

日向が目を丸くする。

「授業中に耳栓?」

「先生、何も言わへんのか?」

壱成も珍しく驚いていた。

俺は何も言えなかった。

耳栓。

だから誰とも話さないのか。

だから呼ばれても気付かなかったのか。

でも、どうして。

うるさいから?

それだけじゃない気がした。

休み時間。

優花は教室を出て行った。

俺は少し離れて後を追う。

廊下を歩く優花は、後ろから誰かが近付いても振り向かない。

聞こえていない。

いや──聞こうとしていない。

そんな気がした。

「龍。」

後ろから壱成が来る。

「どう思う?」

俺は優花の背中から目を離さず、小さく答えた。

「……あいつ、自分で世界の音を消してる。」

その理由は分からない。

だけど、理由があることだけは確信した。

優花の耳栓は、おしゃれでも、ふざけているわけでもない。

あれはきっと――

誰にも踏み込ませないための壁。
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