音のない世界
昼休み。

優花はいつも一人だった。

誰とも話さない。

誰とも笑わない。

パン一つだけを机に置いて食べる。

その姿を見ているだけで、胸が苦しくなる。

俺は柄にもなく立ち上がった。

「……龍?」

壱成が不思議そうな顔をする。

俺は返事をせず、優花の方へ歩いた。

その瞬間だった。

優花の手からパンが落ちる。

俺は反射的に拾った。

「ほら。」

パンを差し出す。

優花は固まった。

目が大きく開く。

肩が震える。

その顔を見た瞬間、胸が締め付けられた。

……まただ。

俺は何もしていない。

それなのに、この震え方。

優花は俺の手からパンを取ると、逃げるように教室を飛び出していった。

「龍。」

陽介が横に立つ。

「嫌われたな。」

「……違う。」

俺は廊下を見つめたまま答えた。

「あれは嫌ってる顔じゃねぇ。」

「じゃあ何や。」

「怯えてる。」

壱成も黙った。

あんな怯え方をする理由が分からない。

男が近付くだけで震える。

後ろに立つだけで体が固まる。

何があった。

優花。

お前に何があった。

俺は生まれて初めて、一人の人間のことばかり考えていた。

綺麗だからじゃない。

放っておけない。

笑ってほしい。

俺の前で安心してほしい。

そんなことを思う自分に少し笑った。

「龍。」

日向が肩をすくめる。

「そんな気になるなら告れば?」

俺は首を横に振る。

「今のあいつにそんなこと言ったら、逃げられる。」


焦るつもりはない。

今の優花は、誰も信じていない。

だったら俺は待つ。

毎日でも。

一年でも。

何年でも。

まずは俺を見ても震えなくなるまで。

そしていつか。

優花が自分から俺の名前を呼ぶ日が来たら──。

その時は胸を張って言う。

「優花、お前を一生守る。」

その日が来るまで、俺は絶対に諦めない。

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