卒業まで、好きでした。

あの日「大丈夫?」

春が過ぎ、季節は少しずつ夏へと向かっていた。

土曜講座は相変わらず続いていて、私は毎週学校へ通っていた。

講座の日だけ会える先輩。

その時間は、私にとって特別だった。

学校では学年も違う。

廊下ですれ違うことはあっても、話せる機会はほとんどない。

だから私は、土曜日が来るのを楽しみにしていた。

ある日の夕方。

突然、家が大きく揺れた。

ガタガタッ――。

棚の物が音を立て、窓ガラスが震える。

「地震!」

思わず机の下に身を隠した。

数十秒だったはずなのに、とても長く感じた。

揺れがおさまっても、心臓の鼓動はなかなか落ち着かなかった。

テレビでは、地震速報が流れている。

私は家族の無事を確認すると、ふと先輩の顔が浮かんだ。

大丈夫だったかな。

スマートフォンを手に取る。

何度も文章を打っては消した。

迷惑じゃないかな。

急にLINEしても大丈夫かな。

そう悩みながらも、私は送信ボタンを押した。

『先輩、地震大丈夫でしたか?
怪我していませんか?』

送ったあと、画面を見つめる。

いつもなら、返事が来るのは二日後くらい。

だから、今日もそうだろうと思っていた。

ところが。

数分後。

スマートフォンが震えた。

『大丈夫!
結構揺れたね。
滝尾さんのところは大丈夫だった?
怪我してない?』

私は思わず目を丸くした。

早い……。

いつもよりずっと早い返信だった。

嬉しさと安心で胸がいっぱいになる。

私はすぐに返事を書いた。

『私は大丈夫です!
心配してくださってありがとうございます。』

送信すると、自然と笑顔になっていた。

先輩も無事だった。

それだけで十分だった。

翌週の土曜講座。

教室へ入ると、先輩の姿が見えた。

いつもと変わらない笑顔。

その姿を見ただけで、私は心の中で「よかった」とつぶやいた。

講座が終わり、帰る準備をしていると、先輩が声をかけてくれた。

「この前の地震、怖かったね。」

「はい……思ったより揺れてびっくりしました。」

「怪我がなくて本当によかった。」

短い会話だった。

でも、その一言が嬉しかった。

あの日だけは、LINEの返事がすぐに届いた。

きっと地震だったから。

きっと心配してくれたから。

理由はそれだけだったのかもしれない。

それでも私は、そのメッセージを何度も読み返していた。

たった数行のやり取り。

それなのに、私の心には大切な思い出として残っていく。

「大丈夫?」

その優しい言葉が、あの日の揺れよりも、ずっと長く私の胸に響いていた。
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