手フェチ女とピアニスト
それは椅子の上の枯れた花束。
 異質な存在感を放っている。

「あの、あれは一体……?」

 涼に尋ねると、顔を曇らせた。

「……公演が終わって戻って来たら、ドアの前に置いてあって」

 一部ならまだしも、全部枯れた花束なんて明らかにおかしい。

「嫌がらせじゃないのか……?」

 店長がぽつりと呟き、由麻も頷く。

「でも、流通のミスで枯れてしまったかもしれないし」
「確かに……」

 納得はできないが、その可能性もゼロではないので何も言えない。
 沈んだ空気の中、スマホの着信メロディが流れる。
 ポケットからスマホを取り出した涼が「後援の人達からだ」と言った。

「じゃあな涼、また店に来いよ!」
「ああ」
「失礼します」

 由麻は店長と話す涼に会釈をして控え室を出た。
 由麻と店長は並んで歩き出す。

「あの枯れた花束、嫌がらせではないんでしょうか」
「……オレ、涼とは幼馴染みなんスけど、涼ってピアノが弾けてかっこいいからか、妬まれて嫌がらせされることもあって」
「まあ……」
「犯人探そうって言っても、したくないみたいで」

 本人にその気がないと難しいよなぁ。
 眉間にシワを寄せて考え込む由麻を見て、店長が慌てる。

「でも、由麻さんみたいな純粋にピアノが好きなファンができて、うれしいと思うッス! 涼って、見た目だけで寄ってくる女性にも苦しめられたから」
「……いえそんな」

(ごめんなさい、まさにその見た目で寄って来た女です)

 罪悪感で由麻の胸がちくりと痛んだ。
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