手フェチ女とピアニスト
「涼さんの最新のBlu-rayディスク買ったから、毎日観てます」
「うれしいな。由麻はどの曲が一番よかった?」
「フォーレのシシリエンヌかな……すごく綺麗で聴くと安眠できるんです」
(まさか曲名聞かれると思わなかった! ちゃんと覚えておいてよかった~)
余裕のある微笑を浮かべているが、内心ほっと胸を撫で下ろす由麻。
「じゃあ今度のリサイタルでシシリエンヌを弾くから、絶対においで」
「も、もちろん……!」
涼が由麻の顔を覗き込んでにっこりと微笑むので、由麻の心臓が跳ねる。
(海外仕込みの距離感なだけ! 涼さんはそんな気ないのに、私ばっかり意識しちゃってバカみたい)
店内の照明が薄暗くてよかった。
頬が赤く染まっているところを見られなくて済んだ。
「そ、そういえば初期のリサイタルDVDはどこも全部売り切れだったんですが、今はもう買えませんか?」
由麻が話題を変えると涼はパッと顔を離し、自分のスマホを取り出した。
「本当だ。再販はないなあ」
「そんな……」
中古ですら出回っておらず、絶対に入手できないことがわかり、由麻は落ち込む。