あなたのほくろには、沼りません!
女にしては、低いハスキーボイス。鼻に抜けて聞き取りにくいと言われることが多い澄花は、いつも声を張り上げるように話す。
囁くように呟けば、隣にいても誰にも聞こえない。
やけに説得力のある声になったのは、澄花自身、心当たりがありまくりだったからだ。
珍しく感情のある声を出した澄花に、崇人は擦って真っ赤にした目を向ける。
「聞こえないと思いましたか? 残念でした。高梨さんの声、特徴的だから、聞き逃せるはずないでしょ」
「低いですものね、私の声」
「うん。低くて、体によく響く声。不快にならない声質だし、一度聞いたら忘れられない。うらやましいですよ」
「そうですか」
視線をタブレットに落としながらそっけなく答えたのは、澄花が自分の声を好きじゃないからだ。声優のような美声は望んでいない。せめて、もう少しだけ、ほんの少しだけ声が高かったら、と思わない日はない。
「俺は、好きですよ。高梨さんのこ……くしゅん!」
ふいに呟かれた声は、崇人のくしゃみに遮られる。
「え? 今なんておっしゃいま……」
「くしゅんっ! くっくっしゅん!!」
高梨さんのこ、で止まった続きの言葉は、くしゃみにかき消される。
発作のように連続してくしゃみを繰り返す崇人は、澄花の質問に答える余裕はないようだ。
会話の流れ的には、声で間違いないと思うのに。頭の片隅で、澄花のことが好き、と変換しようとしている自分の妄想力が恐ろしい。