おかえりが聞こえる病室
数分後。

遠くから、サイレンの音が近づいてくる。

赤い光がカーテン越しに揺れる。

インターホンが鳴った。

「救急隊です。」

ドアが開く。

部屋の空気が一気に変わる。

隊員たちは落ち着いた声で話しかけた。

「こんばんは。」

「お名前教えてもらえるかな?」

亜美は苦しそうに頷く。

「……亜美。」

「ありがとう。」

隊員は優しく笑いながら、亜美の呼吸の様子を確認する。

指先には小さな機械がつけられる。

ピッ、と音が鳴る。

隊員はママへ穏やかに説明した。

「酸素の状態を見ています。」

「少し苦しそうなので、病院へ向かいながら必要な対応をしていきますね。」

ママは頷いた。

「お願いします。」

担架が準備される。

亜美はぬいぐるみをぎゅっと抱えたまま、小さくつぶやいた。

「……ママ。」

「うん、一緒に行くよ。」

その一言に少しだけ安心したように目を閉じる。

玄関を出ると、夜風が頬をかすめた。

救急車の後部ドアが静かに閉まる。

サイレンが鳴り始める。

住宅街の灯りが、窓の外をゆっくり流れていった。

亜美は苦しそうな呼吸の合間に、小さく息を吐く。

まだ、この時は知らなかった。

この夜が、自分にとって長い入院生活の始まりになることを。

そして——

302号室で、一人の看護師と出会うことになることを。
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