Ironic Honey
「まだ私達が結婚したのも数か月前よ」

『信じられない人生歩んでるな。まさか一年前の出来事が、今はこうなっているなんて』

「そうね。後悔してる?」

『まさか。これっぽっちも』


 そう言って軽い笑い声が聞こえてくる。出会った時の彼はとにかく堅物。笑顔なんて見せてくれなかったのに、最近の彼はよく笑う。家では常にニコニコと笑みを浮かべては、穏やかな声で話す。そんな彼と過ごすことを今では心地よくなった。

 そんなことを考えていると、私も早く会いたくなってきた。まだ入院生活は五日間程続く。初産は平均五日から六日間と言われている。それも傷の経過によってというところだ。


『なあ、顔見たい』

「は…?」

『ビデオ通話』


 突然の誘いに私は思わず慌てた。ボロボロで、とても見せられたような顔ではない。


「ちょっと冗談でしょ!? メイクもしてないのに」

『大丈夫。すっぴんの君も素敵だから』

「そういう問題じゃ…」

『聖菜』


 名前を呼ばれるともう何も言えなくなる。悩んで、軽く溜息を吐くと、仕方なくカメラを付ける。案の定自分の顔は疲れ切っていて、とてもじゃないけれど人に見せられる顔なんてしていない。

 すっぴんを見せているからと言って、ビデオ通話じゃまた少し違った照れくささがあるものだ。

 千織も次第にカメラを付けると、無造作に乱された髪に少し赤くなった顔が映っていた。
< 101 / 132 >

この作品をシェア

pagetop