Ironic Honey
 母が帰った後、千織はまた面会時間が終わるまでいてくれた。


「ちゃんと眠れてる?」


 私の問いに千織は少し笑う。


「君よりは間違いなく寝てるな」

「何時間くらい?」

「五時間くらいはまとめて寝てる」

「そう…。それならいいけど」


 私がいない間も夜に仕事したりしているくせに、どこにそんな時間があるんだか。見なくても、彼のことだから素直に寝ているはずがないということはわかる。

 しばらく無言になると「ねぇ」と話しかけた。千織は私の呼びかけでこちらを見る。


「話したいことがある」

「ああ」


 千織は私の近くに椅子を寄せて、自然と手を取る。何かを察したのか真剣な表情で私を捉えている。


「…あのね、私は…、見てわかると思うけど、頼ったり、助けてって甘えるのがすごく下手なの」


 静かな声で千織に話すと、彼は「うん」と相槌を打つ。


「例えば、千織から、こうしようか? って提案されても、素直にうんって言えないこともあるし…、それは、千織にどうしても負担を掛けたくないって思っちゃって」


 私なりに素直に言葉にすると千織は私の話を口も挟まずにただただ聞いてくれていた。
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