Ironic Honey
「なんとか、しないとよね。弱っている場合じゃない」

『私は前に聞いてたちゃらんぽらんな感じじゃなくて安心したわよ。そうやって、どうしようって不安がってくれている方が、ちゃんと物事に危機感を感じてくれていてよかったなって思う』

「あの時は…、雰囲気も暗くなんかしたくなかったし」

『変なところ強がりなんだから、もっと頼るところ頼って。じゃなきゃ壊れるよ』

「…ありがとう」


 それから少しだけ離して電話を切る。それから溜息を吐いて、名刺を鞄から取り出した。

 長谷川 千織。

 酔っぱらって取り返しのつかないことをして、繋がりが出来てしまった。あの夜は少し気分が上がって、浮かれていたのかもしれないけれど、今はそんな場合ではない。

 スマートフォンの電話アプリで、電話番号を打ち込み、ダイヤルボタンを押そうとした。一瞬親指が躊躇し止まったが、一度深呼吸をし、今度こそタップした。

 数回コール音が聞こえた後、あの人同じ心地の良い低音が聞こえてくる。


『…はい。長谷川です』

「ご無沙汰しております。あの日の夜、バーでご一緒させていただいた、天野 聖菜です」

『どうしました?』

「お話したいことがあります。近々お会いできませんか」


 この問題からは逃げられない。とことん、向き合わないと。
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